「林真須美」毒物カレー事件の動機は何だったのか?

 

1998年7月。

夜のニュース番組のディレクターを務めていた私は、事件発生の数日後に現地に入った。

 

通称、和歌山毒物カレー事件。地域の夏祭りのカレーにヒ素が混入され、住民4人が死亡、63人が急性ヒ素中毒となった凶悪犯罪事件だ。

発生当時から、林真須美死刑囚とその夫が事件に関与しているのではないかとの噂が流れ、報道各社は自宅を遠巻きに見つめていた。

現場についた私は、周辺住民すべてに話を聞こうと決めた。

そして、半ば無謀にも思えるかもしれないが、「周辺住民のひとり」として、林真須美死刑囚に話しかけた。

すると、林死刑囚は、まるでタガが外れたかのように、まくしたてるような口調で、周囲から犯人扱いされている不満や、金持ちだと嫉妬されている状況を説明してきたのを今でも鮮明に覚えている

あっという間に1時間が経過し、私は改めて自宅でのインタビュー取材を依頼した。

それを林死刑囚が快諾したため、数日後に今度は番組のメインキャスターだった安藤優子さんを連れて再び和歌山に入った。

暑い真夏日の夕方だった。

林死刑囚はもてなしのつもりか、安藤キャスターと私に、缶のスポーツ飲料を差し出してくれた。

ヒ素混入事件の容疑者と噂される人物の自宅での飲食は避けた方が良いのではないか…。

心のどこかで、そんな思いが頭によぎったが、

「インタビューをお願いしている相手に差し出された物を飲まないのは失礼だろう」

という気持ちと、

「さすがに缶入りの飲料なら大丈夫」

という思いで、少し口にすることにした。

その後、缶の底から穴をあけて毒物を混ぜる模倣犯が現れた時には、鳥肌が立った覚えがある。

この模倣犯は毒物カレー事件とは一切関係がなかった。

林死刑囚への取材は、逮捕までのおよそ2ヶ月続いた。

私は周辺取材のため、和歌山市園部地区に、ほぼ住み着いていた。

周辺住民の聞き込みでは様々な証言を得たが、林死刑囚について「男性にもてる」という噂を良く耳にした記憶がある。

 

ギャンブルにのめり込む原資は保険金詐欺?

取材は林死刑囚だけでなく、夫に対しても行なった。

夫は林死刑囚と結婚した当時、シロアリ駆除の会社を経営していた。

しかし、ギャンブルにのめり込み、ヒ素中毒が原因で体を壊していた。

ギャンブル好きによくありがちな、競輪、競馬で、いかに自分が買ったり、負けたりしているのか、ある種武勇伝的に、ギャンブルの自慢話を繰り返していた。

ヒ素について聞くと、

「シロアリ駆除をする会社が普通に持っている薬。どこにだってある。ただ、自分は体が不自由になってから仕事をやめている。競輪で稼いでいるから、金には困っていない」

と話していた。

金には困っていないと語っていた夫。

周囲によると、林真須美死刑囚の浪費グセも目を見張るものがあったという。

夫の麻雀仲間は

「真須美は羽振りがいい。自分にも1本10万円以上するゴルフのドライバーをプレゼントしてくれた」

と話していた。

「これ、もう使わへんからあげる」という具合だったそうだ。

林死刑囚とその夫の、どこからか湧き出るような多額の金は、のちに、ヒ素を使った保険金詐欺で得たものだったことがわかり、2人は逮捕されることになる。

 

保険金詐欺事件とカレー毒物事件の関係性とは?

保険金詐欺の疑いで林死刑囚とともに逮捕された夫に対し、世間は当初、「妻からヒ素を盛られた可愛そうな被害者」と見る向きもあった。

だが、その後起訴され、服役を終え出所した夫は、保険金詐欺について自らの犯行だと認めた上で、妻・真須美死刑囚の自分への殺人未遂に関しては否定。

自らが耳かきの3分の1程度のヒ素を飲んでは詐欺容疑を繰り返したとして、次のような説明している。

「保険金詐欺を始めたのは、真須美の母親が死亡した時に受け取った保険金を競輪で3000~4000万円使い込んで夫婦喧嘩になったのがきっかけ。真須美にえらい怒られた。それならワシが自分の体を張って保険金を取り返してやると。で、ヒ素を使って入院したんです」

あくまでも自らがヒ素を飲んだ保険金詐欺事件であるとの主張。

毒物カレー事件に関しても、妻の関与はないと信じている。

他にも、詐欺事件は複数の麻雀仲間による犯行で、保険金をだまし取る際に必要な診断書は医師に協力して書いてもらったなどと説明している。

林真須美死刑囚は逮捕直前、フジテレビの夜のニュース番組に宛てに、医師の診断書もあったと主張する手紙を送ってきていた。

 

これが、真須美死刑囚からの手紙だ。

医師の診断書がきちんと揃った上で、保険金が下りたと主張している。

逮捕直前は、毒物カレー事件ではなく、保険金詐欺に対する完全なる防御姿勢だったことが伺える。

 

謎の残る事件の動機

逮捕後、林死刑囚は、保険金詐欺については認めたものの、毒物カレー事件の関与に関しては、一審では黙秘を貫いた。

控訴審からは沈黙を破って、無罪を主張。最高裁でも、自白がない中、状況証拠の積み上げで死刑判決が確定した。

ただ、最高裁で死刑判決が確定してからも、林死刑囚は無実を訴え続けている。

毒物カレー事件の被害者や遺族らが裁判で知りたかったのは、犯行の動機だろう。

いったいなぜ、自分や家族が事件に巻き込まれなければならなかったのか?

 

夫にとって眞須美死刑囚との結婚は、3度目の結婚だった。

4人の子宝に恵まれ、周囲からは、亭主関白の金持ち幸せ一家に見えていた。

しかし、自らの健康と引き換えにお金を手に入れたばかりに、家族の幸せはもろくも崩れ落ちてしまった。

 

両親を見続けた息子の証言

事件発生から逮捕までの一部始終を、家族として見つめてきた人がいる。

その1人が、林真須美死刑囚の長男・林義春(仮名)さん。

姉2人と妹の4人兄弟で、事件当時、小学5年生だった彼は、金欲まみれの林家の様子を昨日のように記憶しているという。

母はなぜ、あのような凄惨な事件を引き起こしたのか?その真相を知りたいというのが、林義春(仮名)さんの願いだ。

27日夜には、初公開の警察資料や義春(仮名)さんの証言を基に、カレー毒物混入事件の真相に迫る番組が予定されているという。

 

事件の動機は一体何だったのだろうか?

その謎が解けない限り、事件に巻き込まれた被害者やその家族、そして、今でも母親を無実と信じる子供たち、誰もが報われない気がしている。

 

 



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