事故物件をつかまされない「一言」

 

神奈川県座間市の9人殺害事件のアパートのように、殺人や自殺があった部屋は通常「事故物件」と呼ばれる。

そんな物件に、知らず知らずのうちに住んでいるとしたら……。

事故物件における業者の説明の実態や、買主・借主ができる対策を、『訳あり物件の見抜き方』の著書・南野真宏氏が語る。

 

「殺人物件」の記載は数年で消える

神奈川県座間市のアパートから9人の遺体が見つかった事件は、その概要が容疑者の供述と警察の捜査で詳らかになるに従い、発覚から1か月経った今でも、マスコミが連日報道を繰り返している。

報道によると、容疑者の男(当時27歳)は、ツイッターを通じて被害者を自宅におびき寄せ、睡眠薬や酒を飲ませた後に室内のロフトで首をつるして殺害。

その遺体を浴室で解体し、肉と内臓はゴミとして捨てたという。

 

捜査員が男の居住する賃貸アパートに踏み込んだところ、室内には頭部など遺体の一部が入った多数のクーラーボックスが置かれていた……。

 

この事件から、2008年に起きたいわゆる「神隠し殺人事件」を思い出したのは私だけだろうか。

女性会社員が自宅マンションから姿を消し、同居していたお姉さんが被害届を提出。玄関に血痕が残っていたものの、監視カメラの映像からはマンションを出た形跡がなかったため、当初、マスコミ各社が「神隠し」だと騒いだ一件だ。

 

結局、犯人はマスコミ取材にも答えていた同じフロアの男性で、性奴隷を獲得するという自分勝手な目的のために、女性の帰宅を待ち伏せして自分の部屋に拉致。

警官の姿を見かけて事件発覚を恐れ、首を包丁で刺して殺害した挙句、遺体をバラバラにしてトイレに流したり、他のマンションのゴミ捨て場やコンビニのゴミ箱に捨てていたという凄惨な事件だった。

 

その事件の起きたマンションは、江東区潮見にある9階建て150戸の大型物件。

2007年12月の竣工から半年も経たない翌年4月に事件が起こってしまい、8万から9万円台だった家賃は、事件直後に2万円以上安くなり、マンション名も変更されている。

 

ただし、マンション名が変わった後も、2013年時点までは、賃貸の募集広告に「告知事項あり」と記載されており、少なくとも事件発生から5年間については、入居希望者は事件があった場所だと告知を受け、納得して入居していたと思われる。

 

しかしながら、2015年には既に「告知事項あり」の記載はなく、今現在もない。

つまり極端な話、殺害が行われた部屋を知らずに借りてしまうかもしれないし、被害者の血肉が流れた下水管が配された部屋を借りてしまうかもしれないのだ。

 

毎年3万件の「事故物件」が生まれる

1,051件、1,030件、938件、1054件、933件……。

これは平成23年から平成27年までの殺人認知件数である(法務省『犯罪白書』より)。

判明しているだけで、1か月に100件近くの殺人事件が起こっている。

 

つまり毎日3件程度、日本のどこかで殺人事件が発生しているという計算だ(この統計には殺人未遂などの件数も含まれているので、死亡者数はその四割程度である)。

 

また、平成28年度の自殺者数は21,897人(警察庁HPより)。

以前のように3万人には及ばないが、決して少ない数字ではない。月にすれば1,824人、毎日約60人の自殺者が発生しているのだ。

 

人生に何らかの行き詰まりを感じて自らの命を絶つ。

あるいは、意に反して、他人の身勝手な欲望や衝動によって、不意に命を奪われる。

他殺や自殺は、無念の思いを抱いて亡くなったと想像される上に、遺体が見つかるまでに時間が経過し、見るも無残な姿のまま放置されるケースが少なくない。

 

特に自殺については、自宅を自殺場所として選ぶケースが約59パーセントと最も多く、同じく約7パーセントを占める高層ビルなどを含めると、建物内で亡くなるケースが大半である(厚生労働省『平成27年の自殺の状況』より)。

また、東京都監察医務院のデータベース(『平成28年度版統計表及び統計図表』)によると、孤独死と見られる東京23区内における一人暮らしで65歳以上の人の自宅での死亡者数は、平成27年で3,127人。

一方、ニッセイ基礎研究所では、孤立死を「自宅で死亡し、死後発見までに一定期間(死後4日以上)経過している人」と定義して全国推計を行っているが(平成22年)、年間15,603 人(男性10,622 人、女性4,981人)が孤独死しているという。

孤独死の場合は、死臭や蝿が発生するようになって初めて周辺住民に発見されることが多いので、無残なその状況は孤独死の残酷さを物語る。

 

ここまでのデータから、自殺する人、殺される人、孤独死する人など、建物内で忌まわしい亡くなり方をする人は一日に85人程度にのぼると推測される。

つまり、一日に85件、月間で2,550件、年間で約3万件のいわゆる「事故物件」が生じ続けている可能性が高いのである。

 

業者は「ウソをつかなければOK」

むろん、事故物件など気にしない、事件のあったマンションに住んでいると囁かれるのも問題ないという人もいるだろう。

全ての人が、そうであれば問題はないのだが、通常は、当該物件の利用に心理的な嫌悪感や嫌忌感が生じるため、知らずに借りて後に過去の事件を知ってしまった際、「聞いていなかった!」ということになる。

 

なぜこのようなことが起きるかというと、民法はもとより宅建業法においても、「自殺(他殺)のあった物件は、発生時から〇年間告知しなければならない」といった細かい規定が存在しないからである。

不動産業者の説明義務に関しては、まず宅建業法35条に説明すべき事項が明記されているものの、権利の種類・内容、物件に関わる都市計画法や建築基準法の概要といったものが対象である。

 

また業法47条では、宅建業者の業務に関する禁止事項として、相手方等の判断に重要な影響を及ぼすものにつき、わざと事実を告げなかったり、嘘をついてはいけないとあるだけで、抽象的な定めしかない。

国土交通省の担当者にもヒアリングしたが、「買主・借主さんが気にされそうなことは説明しておいた方が良い」といった回答である。

 

そこで、不動産業者の多くは、法律上の定めはなくとも、判例などで

「心理的瑕疵(物件で過去に起きた忌まわしい出来事によって通常一般人が受忍限度を超えて嫌悪感を抱き、物件の通常備えるべき品質・性能を欠いている)」

が認められたケースを参考に、重要事項として告知しているのが現状なのである。

 

殺人物件も4年でシラを切れる

たとえば、殺人事件のあったマンションには以下の判例がある。

賃借人が借りた居室内で知り合いの女性を刺殺し、自らはそのマンションから投身自殺したケース。

 

貸主が連帯保証人である賃借人の父親に損害賠償を請求したこの裁判では、女性が胸を刺されるという残虐な殺人事件に対して、変死事件から4年経てば、居住用ないし事務所用の賃料の約7割で賃貸ができ、その頃には通常価格で売却できる可能性があるため、4年後までの賃料減収額154万円、及び変死事件に伴う修理費用26万円の計180万円が相当であると損害賠償が認められた(東京地裁H5・11・30)。

 

この判決は、「4年が経過すれば心理的瑕疵は残らない」=「心理的瑕疵が残るのは残虐な殺人事件から4年間」という具体的な期間を示したものだと言える。

 

同様に自殺に関しても、過去の判例から、心理的瑕疵が残るのは2年程度とされるのが一般的であり、そのため、2年間の定期借家契約(定められた期間が到来すると借家契約が終了し、当然に借家人は退去しなければならないとする契約)で募集広告が打たれることも多い。

 

このように判例を参考に、不動産業者は独自の告知ルールを作っており、件のマンションにおいても、5年を過ぎた段階で募集広告の備考欄から「告知事項あり」の記載がなくなり、事件のことは聞かれない限り説明されなくなったのである。

 

女性8名、男性1名の計9人が殺害され、その遺体が解体されたとされる座間のアパートに関しても、神隠し殺人のマンションと同じ道を辿るかもしれない。

アパート名を変え、家賃を下げて新たな住人を呼び込み、ひたすら風化を待つ……、それとも建物を建て替えてしまうのかは、空き家率の推移とオーナーの懐具合・考え方次第だろう。

 

心理的瑕疵は、被害者でもある売主・貸主はもちろん、宅建業者の責任で生じるものでない。

ゆえに、仲介業者はこれらを説明しないことに罪悪感が生じにくいだろうし、可能であれば告知したくないのが本音に違いない。

 

物件の弱みを見せることは、相手に価格交渉のチャンスを与えることにもなりかねないし、取引そのものが白紙になる可能性もある。

競争の中で不動産業を営んでいる以上、一件でも多く好条件で成約させて、売上を獲得したいのに、言わなければ気づかないかもしれない不利な事項をわざわざ告知することに葛藤を覚えないはずはない。

ゆえに、先のように備考欄で「告知事項あり」と記されているケースは良心的で、特に聞かれない限り告知しないか、オーナー側から聞かされていなかったと逃げる業者も少なくない。

 

「この一言」で業者の先手を打て

では、そのような状況下で買主、借主はどのような防衛策をとればよいのだろうか。

これだけネットに情報が溢れている現在、それを利用しない手はないだろう。

たとえば、大島てる氏の事故物件サイトは有名である。

 

もとより単に住所やマンション名を検索すれば、嫌悪すべき過去が判明することもある。

がしかし、ネットサーフィンで情報にヒットしなかったからといって安心するのは禁物である。

 

そもそも自殺や他殺、孤独死などの嫌悪すべき事実は、遺族にとってもそうだが、売主・貸主にとっても隠したい事実である。

事故物件になったら借り手がつかなかったり家賃を下げなければならない。

遺族にも体裁がある。

部屋に自殺者が出たら、できる限り病院で死んだことにしたいのは当然の感情であり流れといえよう。

 

顕在化している物件は、期せずして表に出てしまったものと考えるのが自然であり、全体数からすると、あくまで氷山の一角であろう。

ネット情報は万能ではなく、真実は、近所の人や近くのお店の従業員の心の中に秘められているケースも少なくない。従って、近隣ヒアリングは不可欠となる。

 

が、そんなネットや実地調査を潜り抜けた事故物件に遭遇する可能性はゼロではない。

万が一にも、知らずに心理的瑕疵物件を購入ないし賃借してしまうと、通常一般人の受忍限度内として、損害賠償すら認められない可能性がある。

 

そこで、提唱するのが、契約する前に「こんな物件だったら要らない」とあらかじめ伝えておくことである。

隠れた瑕疵を巡って、通常一般人の受忍限度内か否かの解釈を争うのではなく、民法95条の錯誤の意思表示を主張して、法的に別の角度から契約解除を可能とするのである。

 

民法95条では、「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする」とされている。

“要素”とは、その錯誤がなければ、その意思表示はなかっただろうと考えられるほど重要な部分のことであり、あらかじめ取引において何を重視するかが表出されていれば、それも重要な部分と認められる。

 

ゆえに、たとえば契約前に

「過去に、自殺・他殺・孤独死などで人が亡くなったような物件なら要らない」

と言っていて、契約後にその事実が発覚した際は、その発覚した重要な事実をあらかじめ知っていれば契約の意思表示をしなかった(錯誤の意思表示)であろうと法的に認められ、その心理的瑕疵の程度にかかわらず、契約解除ができるのである。

 

しかし、この意思表示は、表明したことをはっきりと証明する必要がある。

後に、言った言わないでトラブルになることを避ける為には、問い合わせの際に、「自殺・他殺・孤独死などで人が亡くなった物件はNG」と記してその送信メールを保存しておけばよい。

ボールペン等消えにくい筆記用具で相手への要望内容とその反応を、日付・時間・名前と併せて書き記しておいてもよい。

 

一方で小型のボイスレコーダーで会話の証拠を残す方法もあるが、日常会話では、えてして主語が省略されていたり、「これ」「それ」といった指示代名詞が使われがちであり、第三者が聞くと意味不明な内容となっていることも少なくないため、お勧めしない。

 

誰もが事故物件(心理的瑕疵物件)に出くわす可能性がある。

契約前に気づけば良いが、知らずに契約してしまい、裁判では救われないケースも多い。

 

けれども、契約時に、一言、意思表示さえすれば、有利に調停や訴訟に臨め、法律が味方してくれる。

 

弱い立場にある買主や借主が、“言った者勝ち”のルールを利用しない手はないだろう。

 

 

誰でも「事故物件」には住みたくないですよね・・・

よほどのマニアックな人以外は・・・

 

 



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