関西の記者がNPB新人王投票に苦言

 


セリーグ連盟特別表彰(左から)広島・緒方監督、DeNA・浜口、中日・岩瀬

 

【内田雅也の広角追球】

長く大阪で野球記者として過ごす身として、日ごろ抱いていた不安が現実となった。

プロ野球セ・リーグの新人王(最優秀新人)投票内容が物議を醸している。

全国の新聞、通信、放送各社に所属し、プロ野球取材経験5年以上の記者の投票(1人記入)により選出される。20日に発表となった投票結果は以下の通りだった。

(1)京田(中)208票

(2)大山(神) 49票

(3)浜口(D) 27票

(4)西川(広)  1票

該当者なし  1票

(有効投票数286)

京田陽太(中日)の新人王は順当だろう。

私も京田に1票を投じた。

143試合中141試合に出場し、1番・遊撃に定着。セ・リーグ新人で長嶋茂雄に次ぐ歴代2位の149安打を放ち、打率2割6分4厘、23盗塁を記録している。

問題は2位である。

先発投手陣の一員として10勝をあげ、対抗馬と見られた浜口遥大(DeNA)が27票にとどまったのに対し、出場75試合、打率2割3分7厘、7本塁打の大山悠輔(阪神)が49票も得て次点となっている。

日本野球機構(NPB)は3位だった浜口の奮闘をたたえ、新人特別賞を贈ったほどである。

断っておくが、大山を批判しているのではない。

シーズン後半には4番を打つなど、阪神待望の大砲候補としてよくがんばった。ただし、新人王を獲れるほどの成績ではなかった。

ネット上には

「記者の見識を疑う」

「1年間なんの取材してきたんだろう」

「浜口との差も疑問だが、同じ野手として京田より大山を選んだ方がもっとおかしい」

「これを活躍と言われたら(大山)本人が困る」

「関西のマスコミは阪神の選手を持ち上げすぎ」

といった声が飛び交っている。

もっともな指摘で、同じ野球記者として恥ずかしく、耳が痛い。

最優秀選手(MVP)、新人王、ベストナインの投票は社名や氏名を書いて出す記名式だが、投票結果は公開されるものの、誰が誰に投票したかの内容までは分からない。

推測でしかないが、あの大山への49票は関西を拠点にする記者の投票ではないか。

関西のスポーツ紙やローカル放送では連日、阪神が中心だ。新聞で言えば、1、2、3面はおろか4、5面まで阪神、時には終面まで使って大々的に報道する。

地域密着や読者のニーズに応えるといった意味で仕方ない面もある。



だが、この阪神偏重報道のなかで過ごしていると、よほど自分を律していないと、感覚がまひしてしまう。記者に阪神への偏愛感情が生まれてはいないか。

なかには、ひょっとして、自分の1票程度で結果(京田新人王)は変わらない、と軽い気持ちで阪神愛を示した者がいるかもしれない。

この軽さは自身の責任の重さにあまりに無自覚で、賞の権威を損ねている。

関西だけでなく地方球団には多かれ少なかれ、地元愛はある。

今回で言えば、西川龍馬(広島)への1票にも広島偏愛が見てとれる。

気になって、大リーグ新人王の投票結果を調べてみた。全米野球記者協会(BBWAA)のサイトは誰が誰に投票したかを公開している。

ア・リーグのジャッジ(ヤンキース)、ナ・リーグのベリンジャー(ドジャース)とも満票だった。

各リーグ15球団が本拠地を置く都市のメディアから各2人、計30人による投票である。

地域密着がより顕著な大リーグだが、地元への偏愛は見られなかった。

むろん、両選手は圧倒的な成績だった。

だが、日本ではいかに傑出した成績でも満票は出ない。

今季パ・リーグの源田壮亮(西武)は得票率98%だった。

2013年に新人で最多勝、最高勝率、最多完封に輝いた小川泰弘(ヤクルト)も92%で、菅野智之(巨人)や藤浪晋太郎(阪神)へ票が流れた。野茂英雄(近鉄)や清原和博(西武)も満票ではなかった。

 

日本も記者名と投票内容を公開すべきといった論議もあるだろう。

それよりも野球記者の自覚の問題ではないか。

特に、先にも書いたように、関西を活動拠点とする場合、阪神偏重の色眼鏡を外したうえで、球界全体を見渡すことである。

日ごろから、社内の同僚や後輩記者に話している。自戒、自律の思いを込めて話している。

「阪神はあくまで野球界全体の一部分だ。世界があり、大リーグや各国・地域の野球があり、日本のなかにプロとアマチュアがあり、プロのなかにセ・パ両リーグがあり、そして阪神がある。視野を広く持ち、自分の位置を見失わないことだ」

晩年、甲子園球場のある兵庫県西宮市で過ごした小田実の著書に『西宮から日本、世界を見る』(1993年・話の特集)がある。

なかで関西ローカルのサンテレビでニュース番組の司会者を務めた際、

<西宮に住みついて気になって来たのは(中略)今のジャーナリズムのあり方があまりにも東京中心であることだ>と指摘している。

<あまり東京中心にものを見ていると、日本と世界の姿を見あやまってしまうということだ>。

地方の、関西の野球記者だからこそ見えるものが確かにある。

 

同書タイトルの表現を借りれば、「甲子園から日本、世界(の野球界)を見る」姿勢が問われている。

 

◆内田 雅也(うちた・まさや)

西宮市在住。入社以来、勤務先は大阪(16年)―ニューヨーク(3年)―東京(3年)―大阪(11年)。新人王投票で「青木宣親」が「青木宜親」に読めるというので1年間、投票資格を失効したことがある。漢字の書き方は反省したが、選挙のように、もっと柔軟に対応できないものだろうか。

 

 

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