ろう映画監督・今井ミカさん 「手話が言語であることを証明したかった」

2017/10/16

 

夢に向かってまっすぐ突き進む1人の女性を紹介します。

 

今井ミカさんです。彼女は、生まれつき耳が聞こえない「ろう者」であり、数多くの作品を手がける映画監督です。

 

耳が聞こえないことが壁となり得る映像の世界に、果敢に飛び込んだ理由や思いを本人に伺いました。

 

1988年生まれ。

小学生の頃から映画監督になりたいという夢を抱きつつ、デフファミリー(ろう者の家族)の中で育つ。

 

大学卒業後、2年間香港へ留学し、ろう者学と手話言語学を研究。

 

帰国後は、国内企業で手話動画の制作を行いながら、映画監督として作品を生み出し国内外の映画祭で様々な賞を受け取っています。

 

 

手話が言語であることを証明したかった

 

−−香港留学から帰国後、映像作家の道に進むことを決めたキッカケは?

 

手話が言語だと認識されていない気がして、映像を通して言語としての手話を広めたいと思い決断しました。

私は幼稚部から高等部まで、ろう学校に在籍していましたが、小学部までは手話を使うことを禁止されていました。理由は、日本語を身につけられなくなってしまうからです。

「マジョリティである聴者(聴覚に障害がない人)の社会に参加するためには、手話より日本語をまず覚えなければならない」と幼い頃から教育を受けました。

また、聴者から「手話って(声で)喋れないから、声の代わりに作ったんだよね」「手話って日本語より劣っているよね」と言われてきました。

どうしたら手話が言語であることを証明できるのか考え、ずっと続けてきた映像制作に行き着きました。

 

 

生まれつき耳が聞こえないろう者の第一言語である「日本手話」は、聴者が話す「日本語」とは全く異なる文法をもっています。

 

本来は第一言語の習得を優先すべきですが、少数派のため後回しにされること、また軽視するような発言をされることに、今井さんは常に疑問を抱いていました。

 

 

−−映像制作はいつ頃から始めましたか。

 

小学6年生の時からろう者の弟や同級生と一緒に、ホームビデオでミニストーリーを作っていました。

当時から、ろう者を取り上げた映像作品は少なく、もっとろう者を文化的視点から捉えた作品を作りたいと考えていました。

 

 

自身の体験を踏まえて描いた作品は、ろう者と聴者のどちらからも共感を得ています。

 

「作品を公開するたびに、活動を応援してくれる人が増えていて嬉しい」と語ってくれました。

 

 

映画業界で、ろう者が圧倒的に足りない

 

−−撮影時に苦労することはありますか。

 

映画業界に携わるろう者が少ないため、仲間を集めるのが大変です。

私が作っているのは、ろう者の物語です。ろう者役は、本物のろう者にお願いした方がリアリティがあると考えています。

しかし、ろう者の女優や俳優が少ないのが現状で、今は演技の経験がない人に協力してもらっています。

これから、ろう者が演技や映像制作を学べる環境を少しずつ整えていきたいと思っています。

その一歩として、所属団体JSLTimeの企画で聴者の講師を招き、ろう者向けに撮影技術のワークショップを開催しています。

 

−−ろう者向けの映画を作る時に心がけていることはありますか。

セリフです。今、新作映画の撮影まっただ中ですが、改めてセリフの大切さを実感しました。

普段、日本手話で話しているろう者でも、脚本に書かれたセリフが日本語だと、手指日本語(日本語の語順通りに手話単語を当てはめたもの)に自然と切り替わってしまうことがあります。

そのため、最初はセリフを日本語で書いていましたが、役者が日本手話でセリフを言えるように、手話の語順に沿って単語のラベルを並べて表記するなど、工夫をした脚本を配布しました。

 

 

また、“ろう者が見て違和感のない映画”になっているかという点も重要です。

例えば、聴者が撮る映像で、西日の当たる台所の風景を数秒間流しているとします。その時映っていなくても、包丁のトントンという音や、鍋のグツグツ煮える音により、聴者は「あ、今誰かが夜ご飯の支度をしているのだな」と想像します。

しかし、ろう者はその映像を観て「なぜ台所を映すのだろう?」と疑問に思います。

私がもし同じシーンを撮るとしたら、包丁で何かを切っている様子をアップで撮ったり、鍋の中のおかずがグツグツしている様子を撮ります。

このように、目から受け取る情報を映し出すことで、ろう者に疑問を与えない映像になるよう心がけています。

 

 

−−今後、ろう者と映画の関わりはどうなると考えていますか。

 

現在、医学的な側面では、人工内耳などで聴力を活用する治療が発達し、聴者に近づけていこうという研究が世界規模で急激に進んでいます。

しかし、私たちろう者は「ろう」を治すものと思っていませんし、治す必要がないと思う人も多いです。

そのような流れの中、テレビ電話でやり取りするろう者も増え、ろうと映像は切っても切れない関係になってきていると思います。

「ろう者」というアイデンティティを示す手段として、今後は映画もその一つになっていくのではないかと期待します。

そして、ろう者が作る映画を観ることによって、聴者の方々にも「ろう者とは?」「言語としての日本手話とは?」と考えてもらえるキッカケになり、広まればなお嬉しいです。

 

 

現在撮影中の映画「虹色の朝が来るまで」は、ろうとLGBTQ(性的少数派)の2つのマイノリティを取り上げた映画で、実際に今井さんは主人公と同じ「ろうLGBTQ」の1人でもあります。

 

当事者自らが脚本・監督を務める本作は、クラウドファンディングで制作資金を募っています。

 

音の装飾に頼らず、多様な視覚的アプローチを利用したストーリー展開は、ろう映画監督の今井さんだからこそできる技です。

アイデンティティを活かし前向きに制作活動に励む姿は、ろう者に限らず多くの人々に夢や希望を与えています。

 

 

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