甲子園秘話 応援団長が最後に流した涙の 「本当の理由」

 

甲子園の熱い夏が終わりました。

そのグラウンドを見つめ続けた一人の男の涙が、多くの人の心を捉えたことをご存じでしょうか。

天理(奈良)の応援団長、木村虎之亮(とらのすけ)君。

数十年続くという紫の着物にはかま姿の彼は、伝統に従い、試合中は腕を組んだまま一言も発さず、厳しい表情でグラウンドをにらみ続けました。

しかし、そんな彼の頰を最後に伝った一筋の涙。

 

凜とした立ち姿の応援団長が静かに流した涙の裏には、心を動かされる理由があったのです。

 

応援団長は3年生の野球部員

 

木村君は3年生の野球部員です。

しかし、ケガで裏方に回ることが決まり、自ら応援団長になることを志願しました。

下級生だった頃に見た、不動の団長の背中が格好良かったからです。

奈良大会期間中は対戦相手の分析係を任され、試合のビデオ撮影などで忙しかったのですが、甲子園ではテレビ中継があるため仕事が軽減され、念願かなって4試合で応援団長を務め上げました。

腰椎(ようつい)分離症や肉離れなどケガの連続でベンチ入りを逃していたことは、事前の取材で本人から聞いていました。

甲子園での広陵(広島)との準決勝直前に、「これからどんな気持ちで仁王立ちするの?」と質問してみました。

すると、「みんなケガをしないように、万全の状態で全力プレーできるように願うんです」と笑顔を浮かべました。負傷で苦しんだ彼らしい言葉でした。

 

炎天下での試合ですが、代々の伝統で動くことはできません。

攻守交代の合間は、じっとした姿勢のまま2年生部員の岩本雄勢君に経口補水液をストローで口に含ませてもらい、汗を拭き取ってもらっていました。

タイミングを見計らって腰を強めにたたいてもらう場面もありました。

事前に岩本君にお願いしていたそうで、かなり体力的にもつらいことが分かります。

 


じっとした姿勢のまま水を飲ませてもらう

 

木村君のすぐ脇に、ぶかぶかの天理のユニホームを身にまとった男の子がいました。

木村君の一番下の弟、小1の恵瑠(めぐる)くん(6)です。

ちなみに木村君は男ばかりの4人兄弟の長男です。あとから分かったことですが、このユニホームは木村君のものでした。

「僕はもうユニホームを使わない。だから、代わりに恵瑠に着てもらいました」

道理でぶかぶかなはずです。

長兄の代わりに声をからし、メガホンを必死にたたいていました。

 


木村君のぶかぶかのユニホームを着て応援する弟の恵瑠くん(左下)

 

分かっていなかった涙の本当の意味

試合は9回裏まで進み、天理は6―12と6点差を追う苦しい展開。

先頭打者は代打の橋本大剛君です。その橋本君は、ショートへの内野安打で反撃ののろしを上げました。

その時です。グランドを見つめていた木村君の目から涙があふれ出たのです。

それまで厳しい表情を続けていた彼の涙にカメラを向けました。でも、その涙の本当の意味を、その時は分かっていなかったのです。

木村君によると、9回裏の攻撃が始まる前、ベンチ前でヘルメットをかぶってバットを持った背番号13の橋本君の姿が目に入ったと言います。

「代打で出るんだな」とすぐ分かりました。

どうしても頑張って欲しい。心の中でそう願っていました。

 

 

けが続きの自分を支えてくれた友達

木村君と橋本君は、天理中野球部で一緒にプレーした仲間で、3年生の時には全国大会でベスト8にも入りました。

ただ、天理高校野球部は別格の名門、中学の同学年15人のうち、野球部に入部したのは木村君とと橋本君を含めてわずか4人。

その中で橋本君はこの夏、唯一ベンチ入りしていました。

木村君にとって、レベルの高いチームでお互いを励まし合いながら3年間を過ごした最も仲のいい友達が橋本君でした。

ケガ続きの時は、学校生活やプロ野球、それに恋愛の話で心を癒やしてくれました。

劇的な出来事があったわけではありませんが、

「思い出せば思い出すほど、そういう普通の会話が浮かぶんです」

 


試合の途中に汗をふいてもらう

 

団長としてはダメなんでしょうが……

試合に話を戻します。

橋本君が放った打球はショートへのゴロでしたが、一塁への必死のヘッドスライディングが実り、判定はセーフ。

その瞬間、感情を抑えることができずに涙があふれ出たのです。

「団長としてはダメなんでしょうが、我慢できなくて……」

 

同時に天理伝統の応援曲「ワッショイ」も最高潮に。

「こんなにもみんなに応援される場所に僕たちはいたんだ」

そう思うとさらに熱いものがこみ上げました。

この回、天理は3点を奪い、9―12まで迫る粘りを見せました。

試合後、天理市内の野球部寮で落ち着いて話を聞きました。

「つらいことがほとんどでした。でも最後に不動の団長ということでマスコミに注目される機会もありました。ありがたいことだと思ってるんです」

 

ハキハキと明るい、普段の彼に戻っていました。

 

真剣勝負の場に身を置いていたい

家族に話が及ぶと、末弟の恵瑠君がおもちゃのバットとボールで見事なバッティングを見せることを教えてくれました。

「でもまだ野球を本格的にやって欲しくないな。早めに体を追い込んで、僕みたいにケガをして欲しくないから」

 

将来の話になりました。

これから警察官か消防士を目指して勉強を始めるそうです。

「真剣勝負の場に常に身を置いていたいんです」

覚悟の決まった表情に、スタンドでの姿が重なりました。

 

高校生のみずみずしさと、しっかりとした意思が同居する彼が、とてもまぶしく見えました。

 

 



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