改元特番でNHKだけが伝えた”不都合な真実”

 

「日本の象徴天皇制は自然消滅する」

ショッキングな表現でそう語っているのは改元の前夜に放送された「NHKスペシャル」に登場した古川貞二郎・元官房副長官だ。

今のままでは象徴天皇制は存続し続けるかどうかわからないと警告する。

番組を見ると、象徴天皇制で初めてとなる「生前退位・即位」という大きな出来事を前にして、政権の中枢にいた人物でさえ強い危機感を露わにしていることがわかる。

その危機感が国民の間であまり知られていないように思う。

この「NHKスペシャル」が問いかけた内容は後でくわしく述べるが、他の番組は「お祝いムード」一色で、肝心な”不都合な真実”がまったくと言っていいほど報道されていないのだ。

 

「5,4、3,2、1・・・令和、おめでとう!」

2019年(=平成31年)4月30日から翌日となる2019年(=令和元年)5月1日にかけて、テレビ番組は”改元”の話題一色である。

連休中の人々があちこちに集まって、再び正月がやってきたようなお祝い騒ぎを繰り返している。

テレビはこうしたお祭りが本当に好きで便乗して盛り上げているような感じさえある。

 

30日は「平成」の時代を、節目となる事件や災害、トピックスの映像とともに振り返り、そこに前天皇・皇后両陛下(現上皇・上皇后両陛下)がいかに被災地の人々らに寄り添い、「象徴としての天皇」のあり方を模索して来られたのかなどについて時間をさいて伝えていた。

 

筆者は、30日夕方、テレビ各社が中継した前天皇陛下の退位のセレモニー「退位礼正殿の儀」の様子を見ていた。

最後まで「象徴としての私」という言葉で「象徴」としての天皇のあり方に最後まで向き合ってきた思いをにじませていたのが強く印象に残った。

立場は違っても同じ時代を生きてきた「人間の思い」が通じたように感じられて、心を揺さぶられた。

 

翌1日昼、皇太子から天皇に即位されたばかりの新しい天皇陛下が「即位後朝見の儀」でお言葉で「象徴としての責務を果たす」と決意を述べられた。

 

一連の儀式や改元にあたっては「象徴」こそ鍵となる言葉である。

この両日、「ニュース番組」でも通常よりも番組時間を拡大して特別編成の態勢になっていた。

当然、「象徴」としての天皇のあり方についても視聴者に示唆を与えたり、現状の問題を提起したりするような報道が行われるだろうと想像していた。

天皇を中心とする皇室の行儀がこれほど連続して生中継という形で長時間報道されることはかつてないからだ。

 

冷静に考えれば、前天皇陛下がこれほど強調され、それを引き継いだ今の天皇陛下も口にされた「象徴」としての天皇の役割について、突っ込んで議論することがニュースなどの報道番組には求められているはずだ。

ところがこの点で「象徴」に正面から切り込む番組は民放にはなかった。

 

各局のテレビ番組を見ていると、役割・機能としての「天皇」や「皇后」と、現存する前「天皇陛下」や前「皇后陛下」があまり明確に区別されず、丁寧な言葉づかいばかり意識して不必要な敬語が乱用されている印象を受けた。

一方で、ほとんどの民放局の報道番組が触れていなかったのが、皇位継承での「女性天皇」や「女系天皇」の可能性をめぐる議論である。

 

「象徴」とは何をする仕事なのかを真正面から追求して取材力を発揮したのが、NHKスペシャル「日本人と天皇」だ。

「天皇」も役割としての天皇としての意味で大半をつかっていた。

 

冒頭のナレーションはこう始まる。

「東京の光の海に囲まれた夜の皇居。今から4時間後に新たな天皇が即位します。これから行われる一連の儀式。天皇の知られざる伝統の姿が現れます。それは神と向き合い祈る姿です。」

鎌倉時代から江戸時代までの即位の時に行われてきた神道と仏教の儀式も明らかにされる。

そこには天皇と神と仏を一体にするサンスクリット語の呪文「ボロン」も明らかにされる。

このように番組では天皇が行う宗教的な儀式などを撮影した映像をふんだんにつかって天皇の宗教行事の歴史的や経緯や変化などを伝えていた。

 

その上で、番組の圧巻な部分は、「皇位継承」についての取材である。

戦前の皇室典範も戦後の皇室典範も「男系男子」(男親の系譜で生まれる男子)を天皇継承の条件と定めている。これまでの歴史では女性の天皇がいた時も、「男系」(父親か祖父などが男性)の天皇であって女系はいなかった。

 

この問題をめぐる取材が非常に深い。

戦後に新しい憲法が発布されて、天皇は「象徴」という立場になり、宮家も11が廃止されて51人が皇族から民間人に身分が変わった。この

取材班は、新憲法が発布された日に三笠宮崇仁親王(昭和天皇の末弟)が皇室典範の草案を審議していた枢密院に提出した皇室典範改正をめぐる意見書を掘り起こしたが、そこで三笠宮は以下のように書いている。

「今や婦人代議士も出るし、将来、女の大臣が出るのは必定であって、その時代になれば今一度、女帝の問題も再検討」するのは当然だと。

進歩的な思考の持ち主だった三笠宮は、天皇にも基本的人権を認めて、場合によって「譲位」という選択肢を与えるべきとも書き残していた。

けっきょく、三笠宮の意見書は枢密院で検討された形跡がなかったが、その後、小泉政権で「女性天皇」「女系天皇」の問題が検討の対象になる。

平成13年(2001年)、当時の皇太子ご夫妻(現天皇皇后両陛下)に女子(愛子さま)が生まれたことで平成17年(2005年)、小泉政権で皇室典範に関する有識者会議が発足して、10ヶ月間、委員はいろいろな資料を元にして議論を進めたという。その中で委員が知った意外な事実があったという。

 

これまでの125代におよぶ天皇のうち、約半分が「側室」(第2夫人、第3夫人など)の子と見られているという。

戦後は「側室」という制度はない。

過去400年間では側室の子どもではない天皇は109代の明正天皇、124代の昭和天皇、125代の前天皇(今の上皇陛下)の3人のみで、側室の制度がない現在においては「男系」の伝統の維持は難しいという声が多くの委員が認識したという。

 

けっきょく、この有識者会議では男女の区別なく「直系の長子(天皇の最初の子ども)を優先する」という最終報告を出し、翌年(平成18年=2001年)、政府は「女性天皇」「女系天皇」の容認に舵を切った。

ところがこの動きに猛反発したのが男系の伝統を重視する人たちだったと、2006年3月に日本会議が行った「皇室の伝統を守る1万人大会」の映像が登場する。

 

日本会議の関係者の映像がNHKスペシャルのような正統派ドキュメンタリー枠で登場するのはかなり珍しいが、NHKのスタッフは今回、番組制作にあたってこうした団体も正面から取材して放送している。

 



当時の平岩赳夫衆議院議員(日本会議国会議員懇談会会長=当時)は演説で以下のように語っている。

「連帯と125代万世一系で、男系を守ってこられたご家系というのは日本のご皇室をおいて他にはありません。守らなければならない伝統や文化は断固守っていかねばならない」

さらに國學院大學名誉教授の大原康男さんもインタビューで「女系はいまだかつてない、まったく別の王朝が生まれること」などと説明するが、けっきょく2006年秋に秋篠宮ご夫妻に長男の悠仁さまが誕生したことで棚上げとなって議論が見送られた。

だが、有識者会議の委員の一人だった元官房副長官の古川貞二郎さんが以下のような言葉を述べるのである。

 

「私はね、不本意ながら、本当に日本の象徴天皇制は自然消滅するのね、そういう言葉は使いたくないけれど、そういう可能性が高いんじゃないかというふうに心配しますですね。これは。というのはお一人。いずれ悠仁親王殿下おひとりになられる。

本当に国民が理解し支持するという案で、この象徴天皇制を継承する議論をし、取り組みをしないと、私は後生に非常に悔いを残すことになりはしないだろうか、というふうに思いますね」

 

確かに、これまで125代の天皇のうち、側室から生まれていない天皇が3人しかないのであれば、側室という制度がなくなった以上、「女性天皇」を認め、「女系天皇」を認めない限りは、古川氏の言う通りで「自然消滅」してしまう可能性が高い。

「男系」を維持すべきと訴えてきた(日本会議系の)人たちは「ある案」に期待を寄せていると、番組で紹介している。

 

それは旧宮家の子孫を皇族に復帰させることで、男系が続く家の男子が女性皇族と結婚するか、皇族の養子になってもらう、という案だという。

いずれにせよ、本人にその意思がなければ実現できないため、NHKの番組取材班は旧宮家の人たちに「質問状」を送って、皇族に復帰する気持ちがあるかどうかを尋ねたところ、全員が「この件はコメントをさし控えたい」という反応だった。

 

番組では「仮に復帰する意思があったとしても皇室典範の改正は必要」とナレーションで説明。

 

「女系」に反対する急先鋒だった平沼赳夫元衆議院議員にもインタビューしている。

 

「やっぱり悠仁親王に男の子がたくさん将来お生まれになることが望ましい。」

(ディレクター」

「一般の我々にしても、女の子がずっと生まれるというのはある。天皇家だけ例外があるのかというとそれも・・・」」

(平沼、しばらく無言で考えた後で)

「誰も結論は出ないでしょうけどじっと待つしかないな。それを信じながら」

 

右派の大物議員で現政権にも少なからぬ影響力を与える人物でさえ「じっと待つ」「信じる」という他にこれという妙案がないという。

そうであればこそ、100年先、200年先でも継続するような仕組みを国民全体でどうやってつくるのか議論することが必要なテーマであるはずだ。

 

この番組の最後は、戦後すぐに皇室典範に「女性天皇」「女系天皇」の余地を検討すべきだと提言していた三笠宮崇仁親王の晩年の声が登場する。

 

2004年にNHKのラジオ番組に出演した時の肉声だ。

「女帝自体も大変だし、けれども今度は一般の人が配偶者になるということはこれは大変で、戦後、華族制度がなくなりまして、華族制度をなくすということは、いわば、天皇制の外堀を埋められたようなこと・・・。今になって考えますとね、だから女帝になっても、配偶者になる方がいないんじゃないかと思うんですね。今の日本人では・・・。今はマスコミが騒ぎすぎますねえ。あれだと本当に将来もそういう立場になるという人もおじけづくだろうし・・・。

理屈では当然、女帝であってもしかるべきだけれども、

現実問題としては、果たしてそれがどうなるのか。女帝おひとりで終わっちゃうのも困りますしね、

これはともかく大きな問題だと思いますね」

 

三笠宮は皇室の行く末を案じながら、3年前に100歳でこの世を去った。

 

この部分の音声には前天皇ご一家の家族写真の映像が挿入されている。

現天皇の長女・愛子さまの他に秋篠宮ご夫妻(現皇嗣・皇嗣妃ご夫妻)の長女眞子さまや次女の紀子さまも写っている写真。

眞子さまとかつて婚約を発表した小室圭さんをめぐる報道を思い出してみても、確かに将来、女帝が誕生するにしても、その配偶者になる人が現れるものだろうかと想像してみる。

 

改めて三笠宮の慧眼には恐れ入るほかない。

三笠宮が考えていた「持続可能性がある象徴天皇制」ということを考えると、現状ではあまりに課題が多いということをこの番組で突きつけられた気がする。

「お祝いムード」一色に染まったテレビ番組が圧倒的に多い中で、このNHKスペシャルは長い目で見た「象徴天皇」のあり方を国民に訴える非常にすぐれたドキュメンタリー番組だったと思う。

 

番組の最後のナレーションはこう終わっている。

筆者自身の経験でも番組の最後のナレーションは制作者がそれこそ全身全霊をかけて書き上げるものだ。

「長い歴史の中で、伝統を受け継ぐそれぞれの時代の日本人の姿を反映した天皇をめぐる課題に、主権者である私たちはどう向き合っていくのか。新たな天皇に何を期待し、どのような時代をともに作っていくのか。その問いとともに、令和がまもなく始まります。」

 

生前退位の儀式の後にNHKが放送したドキュメンタリーが突きつける課題はとても重い。

お祝いムードに浮かれてばかりいるのではいけない。

象徴天皇制をどうつくっていくかは、私たち一人ひとりの国民の意識なのだと訴えている言葉だ。

 

日本人が「象徴天皇」について考えるこの数日、どうあるのが望ましいのかじっくり考えるべきだろう。

 

 

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