がん治療の「最も大きな苦痛」とは

 

衝撃的だった「治療に伴う身体症状の苦痛調査」の結果

2018年に、1年間の新規がん罹患者数の予測が100万人を超えた(「平成22年国民生活基礎調査」に基づく推計)。

最近、「がん」は慢性疾患、ありふれた疾患と見なされるようになってきており、「がんと共に生きる」ことは、糖尿病や高血圧の患者と同じくらい、ごく普通になってきた。

現在、仕事を持ちながら「がん」 で通院している者の数は、32.5 万人に上るという。

また、1年間に新たに発生する18歳未満の子どものいるがん患者の数は56143人だ(「18歳未満の子どもをもつがん患者とその子どもたちについて  年間発生数、平均年齢など全国推定値を初算出」国立研究開発法人国立がん研究センター)。

多くの患者が子育てなどの社会的役割を担いながら、治療を続けている。
がん患者にアンケートをとった「治療に伴う身体症状の苦痛調査」の結果は、医療者にとっても衝撃的であった。

調査結果のTOP20の中には、男女問わず、髪・肌・爪など、外見に現れる多くの症状が挙げられている。

特に、乳がんの患者にとっては、吐き気や嘔吐、痺れや痛みよりも、脱毛や乳房切除の方が辛かったという。

今まで医療者が注目していた、身体の痛みや発熱や吐き気という症状よりも、外見に現れる症状のほうが大きな苦痛を伴うことが、この調査で明らかになった。
吐き気を抑える薬の開発など医療の進化により、副作用の身体的な苦痛は比較的軽減されてきた。

また、入院期間が短縮され、通院で化学療法を受ける患者も増えている。

一方、社会との関わりを持ち続ける上で、外見の悩みが表面化してきたと考えられる。
見た目で悩むのは女性だけの問題と思う方もいるかもしれないが、働き盛りの男性、特に、経営者や起業家とっては深刻な問題だ。

脱毛によって「がん」だとわかってしまい、金融機関からの融資が止まって事業が立ちいかなくなった事例などもあり、経済的にも大きなダメージにつながっていくこともある。

また、男性の方が治療による外見の変化を「恥ずかしい」と思う気持ちが女性よりも強く、相談しにくい傾向もうかがえる。

「男のくせに、見た目やささいなこんな小さなことで悩んでいると思われたくない」

という、男らしさの呪縛に囚われているからかもしれない。
ある男性は、治療の影響で二枚爪になった。

二枚爪になると、薄皮がむけるように爪の一部が剥がれ、爪が薄くなって割れやすくなったり、見た目もガタガタになってしまう。

「汚い感じに見られてしまう」「髪の毛や洋服の繊維などが引っかかる」という地味にイライラしてしまう状態だ。

その男性も、手の爪や足の爪が毎日タオルや布団に引っかかるようになったが、妻には恥ずかしくて相談できず、何ヶ月もひっそりと悩んでいた。

ある会社の社長は赤い発疹が顔に出てしまい、このままでは娘の結婚式にカッコ悪くて出席できないが、その理由自体が恥ずかしくて言い出せず、結婚式直前に「出ない」と言い出した。

カバーメイクで赤みやブツブツを消したことで式に出席することはできたものの、深刻に悩む社長の表情は今でも忘れられない。

お2人とも、私が外見サポートした後に小さな声で

「小さなことだけど、本当に悩んでたんだ。ありがとう



と照れ臭い表情を浮かべながら言ってくださった。

 

家族や社会との繋がりを守る「外見ケア」

また、妻や母親の外見の変化に、本人以上に心を痛めている男性もいる。

がん患者の家族は「第2の患者」ともいわれ、患者さんと同じか、それ以上に心のケアを必要としている。

海外の病院内でもがん患者の外見支援をしているMiMi Foundationという団体は、患者だけでなく家族からの相談を受け付けるほか、エステティック施術なども行っている。
日本でも2018年、運転免許証の写真撮影で医療用帽子を着用することに関して配慮をするようにという通達が出されたり、行政から医療用ウィッグの補助金が出されたり、がん保険で外見ケア特約が発表されたりするなど、様々な支援策が打ち出されている。

がんに対する社会の仕組みは、少しずつ改善されてきている。

 

しかし、課題も多い。

医療用ウィッグひとつをとってみても、インターネットで購入できるような数千円の物から、フルオーダーで製作する60万円以上の物まで様々だ。

治療初期で心理的に不安定な中で、比較検討して自分にあった適切なものを選ぶのは難しい。

治療初期の段階でウィッグをはじめとする外見の悩みが解決されないと、気持ちが前に向かず、外出できず引きこもりがちになったり、生活を楽しむ気持ちが生まれにくかったりする。
患者からは、医師や看護師には相談しにくいという声が多い。

相談先がわからないのが大きな課題だ。

そうした課題に取り組むのが「アピアランスサポート」だ。

全国の美容室と連携している他、病院内のがん相談支援室や調剤薬局などでもサポートを受け付け、患者会などで経験者からアドバイスを受けることもある。
がん患者の外見の悩み(特に脱毛)は治療の初期段階で発生することが多い。

そうした悩みは解消できるんだという成功体験を得ることで、患者は治療やこれからの人生に対して、セルフコントロールできることに目が行きやすくなり、前向きな気持ちを持ちやすい。

また、病状がかなり厳しい状況でも、ヘアスタイルやメイクなどで外見を変えるのは簡単なことだ。

たかが見た目という見方もあるかも知れないが、外見の支援は内面の活力につながると日々感じている。

治療によるボディイメージの変化などで自分らしさを失いそうになる中で、ともに悩む家族、また医療者や社会全体にとっても、アピアランスサポートは「がんとともに生きる時代」に、自分らしさやライフイベントなど楽しみを諦めずに生きていくための一つの新しい方策である。

 

 

 

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