「自殺防止」ポスターへの違和感

 

生きるのがつらいな、と思ったとき、目の前にどんなポスターがあったら「相談してみよう」という気持ちになれるでしょうか。

「ひとりじゃないよ」とキャッチコピーがついたポスターに違和感を感じた大学院生の「

むしろ自殺したさが増す」

とのつぶやきが、昨年末、ツイッターで話題になりました。

ツイートの反響から見えてきたものとは。そして、ポスター制作者の狙いはなんだったのでしょうか。

 

駅でみかけたポスター「むしろ自殺したさが増す」

話題のツイートは、大阪府立大学大学院で不登校の子どもたちの権利保障などについて学んでいる石田まりさん(ツイッターアカウントは「むらさき」@12resw) です。

昨年12月、過去に駅でみたポスター写真を紹介し、

「笑顔がまぶしくて…自分の感性的には…むしろ自殺したさが増すようなものばかりなのは…なぜだ…」

とつぶやきました。

「このツイートをした時点では違和感を言語化できていなかった。ただおかしいと何げなく投稿しただけだったんです」

と石田さん。

 

リツイートは2万1000件を超え、多くの声が寄せられました。

思わぬ反響に多さに「とにかく驚いた」と話す石田さん。

その反響を読むうちに「言語化できていなかった違和感の正体」が少しずつはっきりしてきたと言います。

 

違和感の正体は

「まず、キャッチコピーの『ひとりじゃないよ』という言葉は、一人をよしとしない社会を象徴しているように思いました。それに、『自分はひとりなんだ』という劣等感を促進させてしまうと思ったんです」

 

「さらに、写真の舞台は学校です。学校にいづらくてしんどいと感じている子もいるのに。モデルの子が笑顔なのも、『笑えない状況なのに…』と思わせてしまいます。

グループを写していることも疑問です。みんなが同じ表情をしていることが同調圧力を感じさせ、『みんなの輪に入らないと』という圧力と同時に、『入れない自分の孤独感』を感じさせてしまいます」

一方、反響の中には「ポスターの何がいけないのかわからない」「気にしすぎているからしんどいんだ」という意見もありました。

「様々な意見があっていいと思います。ただ、このポスターをみてしんどいと感じる人がいることは事実です。それに鈍感になってはいけないし、声の大きな人が、繊細な人の感じ方を抑圧するようなことがあってはいけないと思います」

ポスターは関西1800の駅に

ポスターを制作したのは、悩みを抱える人に向けた相談窓口を開設している「NPO法人国際ビフレンダーズ大阪自殺防止センター」です。

毎週金曜日午後1時~日曜日午後10時まで電話相談を受け付けている団体で、昨年3月にはLINE相談も実施しました。

10代からの相談は、電話では1割、LINEでは9割程度あるといいます。

大阪自殺防止センターの所長で、相談業務を担うメンバーの一人、北條達人さん(32)によると、今回話題になったポスターは、外部の広告会社に委託し、2016年から作り始めたシリーズだといいます。

ポスターは現在、鉄道20社の協力を得て関西の約1800駅に掲示されているといいます。

制作者「いま悩んでいるわけではない人の頭の片隅に」

「多くの人の目にとまってほしい」との思いから、ポスター制作の大前提には、「鉄道駅に貼ってもらえるものを作る」という目標がありました。

そのため、ポスター制作の初期から、話し合いには鉄道会社の担当者に入ってもらい、積極的に意見を採り入れました。

「当初は、相談者側の目線で悩みや苦しみの葛藤を表現した文言であったり、誰かの背中を映したデザインだったり、というものも候補にありました」

と北條さん。

 

一方で、通勤通学などで様々な背景を持つ人が利用する特性のある鉄道会社からは、

「直接的すぎてショッキングな内容、深刻な表現は避けてほしい」

「心温まる表現をお願いしたい」

などの意向があったといいます。

 

「それなら、いま自殺を考えている人に相談先を伝えるという目的だけではなく、いま悩んでいるわけではないけど『こんな相談先があるんだ』と頭の片隅に残るようなポスターにしよう」

と目的を設定したそうです。

今回、ネットで話題になったポスターには、良い印象を持たないという意見が多くありました。

 

北條さんは、

「ツイッターでの意見もちゃんと見ています。全て採り入れられれば理想ですが、『これが正解だ』と結論づけるのは難しいと思っています。これからも模索を続けていきたいと思っています」

と話します。



自殺防止ポスターの案を募集

ポスターへの疑問を提起した石田さんは、ネットでの反響を受けて「#理想の自殺防止ポスター」というハッシュタグを作り、意見を募りました。

 

このタグをつけた投稿には、手の写真とともに

「そっと差し出される手を描いてほしい」

というものや、

「心が病んでいるときは人の顔が怖いから、人の顔がみえないもの」

というものもありました。

「みんなが自分の意見を発信できる環境があることこそが、いいなと思いました」

 

不登校、トリガーは給食

石田さんは小学校3年から中学卒業まで、ほとんど学校に行かず、高校は定時制を選びました。

「学校に行けなくなった理由はたくさんありますが、通底しているのは『自分で決めていないことを強制されるのが嫌だった』ということです」

小学生の頃はそこまで意識していなかったものの、入学したときに

「たまたま同じ地域に生まれただけなのに同じクラスに詰め込まれている感じがとても不思議だなあ」

と感じたといいます。
「同世代が苦手。みんながわいわいしているところに入っていくことができず、劣等感もうまれました」

不登校の決定打になったのは給食でした。

偏食かつ小食だった石田さんは、小学3年生の時に無理やり食べさせられる給食が苦痛で、給食の時間を避けて登校するようになり、そこから徐々に学校から足が遠ざかるようになりました。

「普通になりたかったのになれなかった」

中学では「普通になりたい」と、環境を変えようと決めます。

小学校時代の知り合いがいない環境を求め、私立中学に進学。

短かった髪の毛を伸ばし、服装もそれまでとは一転、かわいらしいものを選ぶようになりました。

しかし無理は続かず、2学期から学校には行けなくなりました。

「普通になりたかったのになれなかった」

石田さんはこの頃が一番しんどかったと話します。

「普通を目指したのになれなくて、なれなかった自分がすごく悔しくて。『もう生きたくない』と思った」

「死にたい」と書いた紙が母親にみつかり、怒られ、泣かれ…。

「この社会が向いていない。学校にも行けないし、私はだめ人間だからこれからもしんどい人生が続くだろう。それなら…」

と考える日々だったと言います。

いまも生きづらさ、続いているけど

「いまも生きづらさは全然あります」と石田さん。

障害のある弟の存在が、自分が生きる理由になっていると話してくれました。
そんな日々を経てきた石田さん。「これが正解という自殺防止ポスターはない」と話しますが、あえて聞いてみました。

 

「むらさきさんはどんなポスターなら相談ができると思いますか?」

 

「心のセーフティーネット」があってこその相談

「ゆるさが大事かな。キャッチコピーは『気が向いたら連絡してみて』とか。癒やしのあるゆるキャラとかに登場してもらったりするのもいいかもしれません」

ただし、相談に至る前には「安心感」が必要だと石田さんは話します。

「私は『心のセーフティーネット』といっているんですが、しんどい状態の人が、その状態から『相談する』という行為をすることは、ステップが高すぎる。

いきなり『相談してね』と言われたって、そもそも死を考えるほど辛い人に、相談するエネルギーはないと思う。どうなっても大丈夫だという安心感があってこその相談ではないでしょうか」

 

模索続ける姿勢、同じ

しんどさや、生きづらい気持ちを抱える10代に相談先を届けようと始めた「#withyou」プロジェクト。

常に「どんな情報や表現なら、しんどい人たちに届くだろうか」という悩みを抱えていました。

今回の取材でも、同様の悩みにぶつかっている人々の姿がありました。

 

ツイッターで問題提起した石田さんも、大阪自殺防止センターの北條さんも、「どうすれば伝わるか」を考え、あらゆる提言を否定することはありませんでした。

 

万人に受け入れられる表現を探ることは困難で、答えがない問いです。

ただ、様々なところで「しんどくなったら相談してほしい」と願い行動している人たちがいるということが、つらい思いを抱えているあなたに届いてほしいと思っています。

 

 

 

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