射殺された警官の妻証言「許すことできない」

 

滋賀県彦根市の交番で昨年4月、上司の井本光巡査部長=当時(41)、警部に昇任=を拳銃で射殺したとして、殺人と銃刀法違反(発射、加重所持)の罪に問われた元巡査の男(20)の大津地裁(伊藤寛樹裁判長)の裁判員裁判で4日、井本巡査部長の妻の証人尋問があり

「警察官は誰よりも高い倫理観を持っていて当然。許すことはできない」

と述べた。

 

妻も県警の警察官。

事件直前の井本巡査部長について

「事案対応のほか、部下2人の指導もしなければならずひどく疲れた様子だった」

と話した。

元巡査への不満は口にしていなかったという。

 

精神科医・片田珠美氏は、「加害者は『間欠爆発症』の可能性がある」と語る。
怒りや攻撃衝動を制御できない衝動制御障害で、「これくらいのことであんなに怒るなんて」という人は、このタイプかもしれない。
周囲はどう対処すればいいのか――。

■41歳の巡査部長を撃った19歳巡査は「間欠爆発症」か

滋賀県彦根市の滋賀県警彦根署河瀬駅前交番で、19歳の男性巡査が、同僚の41歳の巡査部長を拳銃で撃って殺害した。

殺人容疑で逮捕された巡査は、「罵倒されたので撃った」などと話しているようだ。

もっとも、「罵倒された」というのは加害者側の主張であり、死亡した巡査部長が本当に罵倒したのかどうかについては、確認のしようがない。

なぜ、この巡査は巡査部長を射殺したのだろうか?

 

▼軽口や冗談も引き金「間欠爆発症」の可能性

まず考えられるのは、この巡査が「間欠爆発症」である可能性だ。

間欠爆発症は、怒りや攻撃衝動を制御できない衝動制御障害の一種であり、かんしゃく発作、激しい口論や喧嘩、他人への暴力、モノへの八つ当たりによる破壊などを繰り返す。

こうした爆発は、きっかけとなるストレスや心理社会的誘因と釣り合わないほど激しい。しかも、衝動的で計画性がない。

 

平たくいえば、「これくらいのことであんなに怒るなんて信じられない」と周囲が驚くほど過剰反応するのが、間欠爆発症の人である。

軽口や冗談などの悪意のない言葉でも、爆発の引き金になりかねないので、周囲はしばしば困惑する。

「かんしゃく持ち」「すぐキレる」などと陰口を叩かれることも少なくない。

 

この巡査が本当に「罵倒されたので撃った」のだとしても、同僚を拳銃で撃つのは、罵倒という誘因と釣り合わないほど激しい反応だ。

客観的に見ると過剰反応である。

 

さらに、単に叱責されただけなのに、この巡査が「罵倒された」と受け止めた可能性も否定できない。

そうだとすれば理解しがたいほどの過剰反応ということになる。

 

間欠爆発症の人が傷害事件や殺人事件を起こす危険性は、一般の人よりも高い。

たとえば、2016年7月、神奈川県平塚市の雑木林で、高校3年の男子生徒が遺体で見つかり、その後、自称土木作業員の20歳の男が、男子生徒のバイクに乗用車を衝突させ、死亡させたとして、殺人の疑いで逮捕された。

 

この男は、

「横を通った男子生徒がにらみつけてきた気がして、追いかけて追突した」

「追い越されたときにガンをつけられ、頭に血が上った」

などと供述したようだが、どう見ても過剰反応である。

 

たしかに、運転中に追い越されると、怒りを覚えて頭に血が上ることはあるだろう。

ただ、にらみつけてきたと感じ、ガンをつけられたと受け止めたのは、被害者意識が強すぎるからではないか。

死亡した男子生徒が実際ににらみつけたのかどうかは今さら確認のしようがないが、少なくとも、逮捕された男の逆上の仕方は、状況を客観的に見ると過剰反応である。

したがって、間欠爆発症の可能性が高い。

間欠爆発症の人の多くは自覚がなく、自分から精神科を受診することはまれだ。

ほとんどの場合、警察沙汰になってはじめて精神科医の診察を受け、その結果、間欠爆発症と判明する。

 

 

■若い社員に注意すると「パワハラだ」と叫ばれる時代

困ったことに、間欠爆発症に限らず、過剰反応する若者が最近増えている。

そのため、指導する立場の上司や先輩が困惑することも少なくない。

 

たとえば、ある会社に女性の新入社員が入ってきた。

ミスが多かったが、「誰でも最初はそういうもの」と上司は自分に言い聞かせながら、我慢して指導していた。

彼女にはもう1つ指導すべき点があった。

遅刻癖だ。正当な理由のない遅刻は、社会人として失格である。

仕事のミスは仕方がないとしても、遅刻癖は直してもらわないと他の社員にも示しがつかない。

そこで、上司は女性社員を呼び出して口頭で注意した。

 

上司が注意したところ、女性社員はその場でワッと泣き出し、「ひどい。そんな言い方をするなんて、パワハラです!」と叫んだ。

上司は指導するつもりで注意したのに、逆に非をなじられて困惑し、それ以上何も言えなくなってしまったという。

しかも、彼女の反撃は、その場にとどまらなかった。

上司の上司にパワハラ被害を相談したのだ。

そのため、上司は人事部から呼び出されて、事情説明をする羽目になった。

 

この女性社員は、遅刻癖という自分自身の非を認めたくないからこそ、自分がパワハラの被害者であるかのように装ったのだろうが、どう見ても過剰反応である。

このように被害者のふりをして、叱責や非難をかわそうとする社員は要注意だ。

 

こういう社員は、絶えず「自分は悪くない」と主張する。

そのためには何でもするが、この女性社員のように被害者を装って、“加害者”とみなす相手を糾弾する場合もあることを忘れてはならない。

 



▼「僕は、親にも教師にも怒られたことがないんです」

別の会社では、20代の一流大学出身の新入社員の男性に手を焼いたらしい。

はじめての業務ばかりだから、わからないことがあって当たり前なのに、上司にも先輩にも一切質問せず、自己判断で進めてしまう。

そのため、何度も取引先からクレームがきたので、上司が「わからないことがあったら、必ず聞きなさい」と注意した。

 

しかし、その後も相変わらず質問せず、自己判断で進めることをやめなかった。

そして、ついに多額の損失を出してしまった。

取引先にも迷惑をかけたので、上司が取引先に謝罪に行ったのだが、当の本人は反省するどころか、

「僕は、こんな小さな取引をするために会社に入ったわけではありません。もっと大きな仕事をさせてください」

と上司に直訴した。

 

そのため、上司が「お前、自分が何をやったか、わかっているのか」と怒鳴ったところ、新入社員は「僕は、親にも教師にも怒られたことがないんです」と答え、翌日から出勤しなくなった。

 

後日、「適応障害のため、休養加療を要する」という趣旨の診断書が送付されてきて、数カ月間休職した。

その間、この新入社員は、「(怒鳴った上司の)パワハラではないか」と社内の相談室で訴えたらしく、上司も事情を聞かれたが、「パワハラではない」という結論が出た。

ただ、上司は、自分が怒鳴った理由や新入社員が損失を出した経緯を説明するのに時間とエネルギーを費やし、疲れ果てたという。

 

 

■自分自身を過大評価「オーバークレーミング」の生態

この新入社員が「親にも教師にも怒られたことがない」のは、おそらく本当だろう。

学業優秀だったので、大学を卒業するまで親にも教師にも叱られた経験がないまま、就職したのではないか。

当然、自尊心は高いはずで、自分は何でも知っていると思いたがる。

こういう知ったかぶりを心理学では「オーバークレーミング」と呼ぶが、この新入社員はその典型のように見える。

「オーバークレーミング」の新入社員は、わからないことがあっても、一切質問せず、自己判断で進めてしまった。

これは自信過剰のせいだろう。こうした自信過剰は、自分自身を過大評価しているせいである。

 

▼「注意するのが怖い」という上司「自己愛過剰社会」の弊害

この手の新入社員が最近増えているようで、企業の管理職の方と話すたびに、「どう対応すればいいのかわからない」「注意するのが怖い」という声を耳にする。

その背景にあるのは、「自己愛過剰社会」とも呼べるほどナルシシズムが蔓延した日本社会だ。

その一因に自尊心の過度の重視があるのではないか。

 

もちろん、自尊心は大切だと私も思う。

ただ、自尊心の重要性が強調されすぎた結果、勘違いした親や教師が増えているように見える。

 

どう勘違いしているかというと、ほめれば、ほめるほど、能力が伸び、成績が上がると思い込んでいる。

なかには、わが子に「お前は特別だ」と言い、望むものを与えれば、自尊心を高められると思い込んでいる親もいるようだが、残念ながらそれはナルシシズムに火をつけるだけだ。

 

結局、「本当は駄目なのに自分をすばらしいと思うのはナルシシズムへの近道なのだが、多くの親と教師はそれを自尊心と呼び換えて日々子供を励ましている」(ジーン・M・トウェンギ、W・キース・キャンベル『自己愛過剰社会』)。

 

このように子どもを甘やかし、ほめそやす風潮に拍車をかけているのが少子化だ。

まるで王子様や王女様のように子どもを大事に育て、自尊心を傷つけてはいけないとの配慮から、叱らない親が多い。

一方、教師の多くは、目に余る言動があれば生徒に注意すべきだと思ってはいるものの、なかなか叱れない。

へたに叱ると、親に怒鳴り込まれかねないからだ。

 

ある小学校では、校長が

「今は子どもの数が少なくて、どの保護者もちょっとしたことに文句をつけるし、教育委員会に通報されては大変なので、気をつけてください」

と日々教師に注意しているらしい。

それだけ親からクレームがくるわけで、多くの教師は親からのクレームに戦々恐々としている。

 

 

■こうすれば殺されない「正しい叱り方3か条」

このように、親が叱らないだけでなく、教師も叱りたくても叱れないのが現在の日本の教育の現状だ。

その結果、少々のことは許されると思い込み、自分の過ちは決して認めない子どもが増えている。

 

こういう子どもが成長して新入社員として入ってくるわけだから、上司や先輩としては、自尊心を傷つけないように配慮する必要がある。「勝手に『できる』と勘違いしているのは新入社員のほうなのに、なぜ指導する立場の自分が配慮しなければならないのか」と納得できない方もいるだろうが、ここで紹介した上司のような目に遭いたくなければ、配慮するのが賢明だ。

 

配慮すべき点は、次の3つである。

(1)できるだけ丁寧な言葉で話す
(2)何ができていないのかを具体的に説明する
(3)侮辱と脅迫は禁物

 

まず、(1)の「できるだけ丁寧な言葉で話す」のは、相手との間に適度の距離感を保つためである。

過剰反応しかねない新入社員は取扱注意の“危険物”と認識し、“危険物”を触るときの手袋として丁寧な言葉を用いるべきだ。

 

(2)の「何ができていないのかを具体的に説明する」のは、「お前は駄目だ」と言われることに耐えられない新入社員が多いためである。

自尊心の傷つきを恐れるあまり、ちょっとした注意や叱責でも、自分への批判や非難と受け止めて過剰反応することを精神医学では「拒絶過敏性」と呼ぶが、このような傾向が認められる若者が増えている。そういう若者に「だから、お前は駄目なんだ」などと言うと、とんでもないことになる。

「お前が駄目なわけではなく、お前がやったこの仕事に問題があるのだから、直してほしい」という論法で対応するしかない。

 

(3)の「侮辱と脅迫は禁物」というのは当たり前だが、とくに「拒絶過敏性」の傾向を持つ新入社員を指導する場合は肝に銘ずるべきだ。侮辱は敵意をかき立てるし、脅迫は恐怖を植えつける。敵意と恐怖にさいなまれた新入社員は、「窮鼠猫を噛む」のことわざ通りパワハラをでっちあげかねない。

そうなれば困るのは指導する立場の上司や先輩なので、わが身を守るために気をつけていただきたい。

 

 

 

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