異常な増加 虐待が減らない要因

 

虐待被害が後を絶たない。

厚生労働省の調査では、児童相談所への虐待相談対応件数は1990年の集計開始以来、27年連続増加しているという。

なぜ虐待は増え続けているのか、内科医の傍ら子どもの虐待・ネグレクトの防止を目的とする「認定NPO法人チャイルドファーストジャパン」理事長を務める山田不二子氏に詳しい話を聞いた。

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2017年度の児童相談所への虐待相談対応件数は、前年度比1万1203件増の13万3778件(速報値)と過去最多の数字を更新した。

これまで児童虐待防止の活動に取り組んできた山田氏によると、虐待に対する意識が社会全体で高まっている表れとして、相談対応件数も増えているのではないか、と推察する。

「そもそも相談対応件数とは、児童虐待の通告を受けた機関がその通告に対して援助方針を決定するなどの対応を行なった件数のことを指します。つまり、この数が毎年増えているのであれば、子どもを救うチャンスも増えたということでしょう」(山田氏、以下同)

 

また、この虐待相談対応件数の増加は、児童虐待の定義が変更された影響も大きいという。

 

「まず2000年に児童虐待防止法が制定されるまで、児童虐待は『暴行等身体的危害あるいは長時間の絶食、拘禁等、生命に危険を及ぼすような行為がなされたと判断されるもの』と定義されていました。

その後、2000年に同法が施行され、児童虐待は、殴る、蹴るなどの暴力行為を指す『身体的虐待』、子どもに性的行為を行なったり、行なわせたりする『性的虐待』、食事を与えない、不潔にする、安全でない環境に放置するなどの『ネグレクト』、子どもの心や自尊心を傷つけるような暴言を吐いたり、子どもの面前でDVを行なうなどの『心理的虐待』の4つが定義されました。このように、虐待の定義が広くなったことも、相談件数を増やしている要因といえるでしょう」

 

児童相談所からの通報が不十分

児童虐待防止法は、「児童」を「18歳に満たない者」と定義しているため、中学・高校生も対象として含まれている。

そして、前述の児童相談所への虐待相談対応件数13万3778件のうち、内容別で見てみると、「心理的虐待」が7万2197件と最も多く、「身体的虐待」が3万3223件、「ネグレクト」が2万6818件、「性的虐待」が1540件だった。

一般的に児童虐待というと、身体的虐待をイメージしがちだが、実際のところは、心理的虐待がほかに比べて突出して多い。それは何故だろうか。

 

「心理的虐待が多い理由としては、子どもの前で父親が母親、もしくは母親が父親に対して暴力をふるう『面前DV』の増加が要因のひとつ。特に近所の人やDV被害者からの通報を受けた警察が、児童相談所に通告するケースがここしばらく増えている傾向にあるようです」

 

一方で、事件性があるにもかかわらず、児童相談所から警察への通報が十分になされていないという実情もあるようだ。

 

「児童相談所は福祉機関なので、基本的に家族を守ろうとする組織です。警察に通報すれば、家族内の関係が壊れる恐れがあり、福祉の理念に反する場合もあります。その葛藤もあってか、客観的に見て明らかに犯罪とみなせる状況でも児童相談所が自ら抱え込むケースも決して少なくありません」

 

ただし、2008年4月、「2007年改正児童虐待防止法」の施行により、裁判所の許可状に基づく臨検・捜索が可能になった。

これにより、児童相談所はいざというとき、警察に頼らなくとも介入できる権限を与えられたのだ。



にもかかわらず、2016年度の厚生労働省の調査では、児童虐待により77人の子どもが亡くなっている(心中の28人含む)。

 

昨年3月には、東京都目黒区で船戸結愛(ふなとゆあ)ちゃん(当時5歳)が命を落としたことも記憶に新しい。

このときは、以前住んでいた香川県の児童相談所が虐待の実態を把握していながら、危険性を判断するアセスメントシートを残していなかったために、転居先の東京の児童相談所に情報が引き継がれず、適切な対応がなされなかった。

 

抜け道のせいで専門性の低いワーカーも

また“プロ不在”の問題も。児童相談所の児童福祉司(ケースワーカー)になるには、通常、児童福祉司の任用資格が必要とされる。

そのほかにも、保健師や保育士等の関連資格を有し、指定施設での実務経験の後、指定講習を受講して児童福祉司になるというルートも存在する。

しかし、山田氏によれば、この資格には“抜け道”があり、専門性が低いワーカーも少なくないというのだ。

 

「抜け道とは『3科目主事』と呼ばれるもので、大学や短期大学の所属学部に限らず、医療や教育、社会福祉、法律、社会学など34科目の中から、3科目以上を履修して卒業していれば、『社会福祉主事』の資格を得られ、児童相談所で働けるという仕組み。

さらに2年以上働けば、児童福祉司の任用資格も得られることになっています。これではあまりにも専門性が欠如しており、どのような状況で子どもを助けるべきなのか判断がつかないでしょうね」

 

とはいえ、児童虐待は、児童相談所だけに責任を押し付けるべき問題ではない。

子どもの異変に気づきやすい学校や幼稚園の教員、保育士、医療従事者などの誰かが発見できれば子どもを守れるはずだが、それも簡単ではないようだ。

 

「日本は、アメリカやイギリスのように虐待の通告に関する研修がしっかりなされていません。学校などによっては、マニュアルをつくっているところもありますが、親に一度確認してから児童相談所に通告するようになっているところもあります。

結局親が虐待の事実を認めるわけがないので、そのまま放置することになるわけです。親に確認などしないで子どもの命を守ることを第一に考えるのは、本来当然のはずなのですが…」

 

さらにここにきて新たな問題も生じている。

昨年の暮れごろから今年初めにかけて、高所得者層が多く住んでいる南青山では、児童相談所新設を巡って、「青山のブランドイメージが下がる」「地価が下がる」などの理由から、地元住民の反対運動が起きているのだ。

 

これまで述べてきたように、虐待されている児童にとって、児童相談所の役割が重要なのは言うまでもない。

 

そして、虐待が深刻化する前の早期発見・対応が何よりも重大であるのに、子どものSOSに気づきながら、手を差し伸べない社会は、果たして健全なのだろうか。

 

 

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