大泉洋が”筋ジス役”を演じた理由

2018/12/29

「タイトルに惹かれて、届いた脚本を読んでみると、とても面白かったんです。

障害のある人の映画って、ひとつのイメージがありますよね。苦労はあるけど頑張っている、それを涙ながらに綴っているような。正直なところ、そういう映画なら僕は出たいとは思わなかった」

首と手をわずかしか動かせない筋ジストロフィー患者を演じた『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』に出演を決めた理由を、大泉はこう語った。

「障害のある人は、町へ出るのも困難だったり、家族を始めいろいろな人に助けられて、ひっそりと生きていると思われがちです。

でも、この映画の主人公の鹿野さんはそういう人ではない。自分ではほとんど身動きできないのに、病院を出て自立したいと言って、実現してしまう。その生活は多くのボランティアに二十四時間支えられてギリギリ成り立つんですが、鹿野さんは遠慮せずたくさんのワガママを言うんです」

タイトルの「バナナ」も、深夜に「バナナを食べたい」という鹿野の要望に、あきれながらも何とか応えようとするボランティアのエピソードから来ているのだ。

 

「ワガママとは言うけど、人として普通に生きたい、欲求を叶えたいってことなんですよね。みんな自由に食べるじゃん、だったら俺もやりたいんだよって。だから旅行にも行くし、ボランティアに手伝ってもらってAVを観たり、ラブレターの代筆までしてもらう。

ほんと面白いんですよ、鹿野さんって(笑)。重いテーマではあるけれど、笑いもあるし、きちんとエンタメになっているところが、今までにない脚本だと思いました」

 

出演を決めた大泉は原作本も読み、さらに脚本について四時間にわたり前田哲監督と電話で話し合った。

「僕は意見があればすごく言うほう(笑)。主演として云々というより、作り手の一人としていい作品にしたい。納得できる答えが返ってくればそのままでもいい。何も言わないでおくのが、いちばんよくないですよね」

 

鹿野は実在した故人。

映画化に際して原作を脚色しているが、作品中の出来事の多くは事実をベースにしている。

それゆえの難しさも感じていたという。

「まず、現実にいた障害者の方を演じるのは、何をしても不謹慎になるのではないかという心配。そこを覚悟を決めて取り組んだわけですけど、鹿野さんはほんの十五年ほど前まで生きていた人です。

だから鹿野さんを直に知っている人が、たくさんいるわけですよ。すると、『実際の鹿野はそうじゃない』という声も、当然届いてきますよね。

でも、僕らが作っているのはドキュメンタリーじゃない。鹿野さんそのままでは、成り立たないんです。僕が役者としてやるべきことは鹿野さんのモノマネではない。自分なりの演技を通じて、鹿野さんが持っていた考えや思い、その本質的なところを観る人に分かりやすく伝えることなんですよ。事実とフィクション、エンターテインメントの匙加減は、この映画の場合とても難しかったと思います」

しかし、現実の鹿野を知る人物が協力してくれたことは、不思議な経験をもたらしてくれた。

「たとえば鹿野さんの主治医だった先生が撮影現場に来てくれて、まさに自分がかつて鹿野さんとやり取りしたシーンを見てる。すると、すぐ『あの時はどうだったんですか』と聞ける。もちろん聞いてそのまま演じるわけではなくて、それを材料に役作りをします。

普通は役作りって、脚本から想像していくしかないわけです。しかしこの作品は、鹿野さんについての情報や知識が勝手にどんどん集まってくる。そういう意味で、今までにない不思議な経験でした」

 



映画の中で最初は手や首を動かせた鹿野は、次第に病状が進行し、痩せ、呼吸する力も弱まっていく。

大泉は撮影が進むのに合わせ、体重を十キロ落とした。

「車椅子やベッドでの演技はそれほど辛くなかったんですが、ダイエットは辛かった。地元の北海道で撮影しているので、ほんとは夜、皆を美味しいお店に連れて行きたいのに、行っても僕はほとんど食べられない。

そして毎日、札幌の河川敷をランニングしました。ただ走るのは意味がないと、今まではランニング嫌いだったんです。でもウォーキングだと寒いから、仕方なく走っているうちにハマってしまい、ついにこの間、高いシューズやウェア一式を買ってしまいました(笑)。

(共演の三浦)春馬君はもともと走る人で、(高畑)充希ちゃんも走るようになってハマり、ランニング部と言ってみんな一緒に走ったり。ええ、僕が部長です」

映画の中で鹿野は人工呼吸器をつけざるを得なくなるが、その撮影の頃が最もしんどい時期だったという。

「呼吸がだんだん出来なくなっていくので、深く息を吸ってはいけない。浅い呼吸をずっと続ける芝居は、とても辛かったです」

食事制限とランニングで順調に痩せて行った大泉が、終盤に向けあと三キロ絞ろうと思ったとき、体調を崩した。旧知の病院で検査してもらうと、栄養失調という診断。そして、

「非常に危険な数値。免疫力がゼロに近くなっているので、今はどんなウィルスでも感染する」

と言われたという。

「身体が悲鳴を上げていたんですね。案の定、旭川の撮影で風邪を引いて熱を出しました。充希ちゃんが『部長、旭川サイコー気持ちいいですよ、部長が走らなくてどうするんですか』とか言ってましたけど(笑)。結局、二日ほど休んで大事ありませんでした」

 

本作の経験は、大泉自身にある変化をもたらした。

「いろいろな人に出会い、自分自身がどこかにもっていた偏見も見えて、これまでの映画以上に伝えたいものが大きくなっていった感覚があります。いまは障害を持っているということが、もっと普通になればいいな、と思います。

あの人は痩せてるな、あの人は髪チリチリだな(笑)、そういうのと同じくらいのものになってくるといいんだよね」

 

 

こちらもどうぞ「オーストラリアの五体不満足さん」

「これ見て泣かない奴は鬼!」

 

 

-いい話, エンタメ, 映画
-,