メキシコで血の選挙戦 候補者ら120人以上が殺害される異常事態

 

7月1日に総選挙を控えたメキシコで、候補者や選挙関係者が全国で120人以上殺害されるという異常事態となっている。

 

殺人事件の総数もうなぎのぼりで、今年の犠牲者数は、過去最悪を更新する3万人を超える見込みだ。

麻薬密売組織による犯罪行為が社会に蔓延していることが背景にあり、最大の麻薬密輸先である隣国アメリカのメディアも、大きな関心を寄せている。

 

 

◆警察も殺人事件に加担

メキシコでは、7月1日に同国史上最大規模の選挙が控えている。

 

大統領選、上下院議員選、州議会選、各地方都市・地域の首長選挙など、約3400の選挙が一斉に行われる。

選挙戦は昨年9月に公式に始まったが、以来、候補者や候補予定者、選挙スタッフら選挙関係者約120人が殺害されている。

選挙関連の殺人事件があった地域は全32州中22州と全国的で、殺人事件の総数も史上最悪だった昨年の2万5000件を上回るペースとなっている。

 

今月20日から21日にかけては、西部ミチョアカン州で、立て続けに2人の市長候補が殺害された。

事件があったのは、いずれも山間の過疎地。

麻薬密売組織や非合法の木材伐採などを行うギャング団が闊歩する土地柄だ。

 

このうち、左派・民主革命党の市長候補、フェルナンド・アンゲレス・フアレス氏が私有地内で何者かに射殺された事件では、町の公安部長が事件に関与したとして検察当局が逮捕に向かったところ、地元の警察官たちが抵抗。

CNNなどによれば、威嚇射撃の応酬があり、最終的に町の警官28人全員が逮捕されたという。

 

 

この事件からは、組織に買収された警察が犯罪を隠蔽しているばかりか、犯罪の片棒を担ぐ構図が見て取れるが、こうした腐敗と混乱は氷山の一角だ。

メキシコの犯罪は、凶悪化、広域化の一途をたどっており、エコノミスト誌は、次のような例を挙げている。

 

「第2の都市グアダラハラでは、行方不明になっていた3人の映画学生が酸で溶かされたことが明らかになったのを受け、1万2000人の人々が抗議デモを行った。その1ヶ月前には、ゲレロ州で暴力の蔓延を理由にコカコーラのボトラーが操業を停止した。

一方、2年で犯罪率がおよそ3倍になった北部国境地帯の町、ティファナの遺体安置所は殺人事件の犠牲者の遺体であふれかえり、住民が悪臭に抗議する事態となっている」

 

 

◆犯罪の多様化、広域化、縄張り争いが要因

なぜ、これほどまでに殺人が増えているのか。

 

メキシコのセキュリティアナリスト、アレハンドロ・ホープ氏は「簡単な数学で説明できる」とAPに解説する。

7月1日の選挙に、ターゲットとなりうる1万5000人以上の立候補者がひしめいているからだ。

 

政治家が狙われる背景には、メキシコの犯罪組織の犯罪形態の多様化があるという。

麻薬密売の取り締まりの強化を受けて、ドラッグ・カルテルが麻薬犯罪以外にも恐喝、誘拐、石油の横流し、違法伐採などにも手を出すようになってきていると、ホープ氏は指摘する。

 

例えば、石油の横流しの場合、非合法なパイプラインを敷いて盗んだ石油を組織の倉庫にいったん貯蔵する手口が用いられるが、地域の自治体や警察が見逃したり隠蔽したりしなければ、このような大胆な犯行は成立しない。

 

今や、犯罪組織と政治家や地方政府の間で賄賂のやり取りや脅迫行為が行われているのは公然の秘密となっている。

そして、選挙を控えた今、利害が対立する政治家や、汚職に立ち向かうと公言する候補者が次々と殺害されるという悪循環に陥っている。

 

 

また、犯罪組織同士の縄張り争いも激化している。

2012年に就任したペニャニエト大統領は、麻薬カルテルの殲滅を目指し、組織の重要人物たちを次々と逮捕した。

 

しかし、それが結果としてギャングたちの分裂、無秩序化、抗争の激化を促したとエコノミスト誌は指摘する。

選挙絡みでは、一方の組織と関係を結んだ候補者がライバル組織の手で殺害されるケースも起きている。

 

 

◆相次ぐ出馬辞退

中央政府の目が行き届かない地方部では特に犯罪組織の権力が増大しているようだ。

 

メキシコの地方情勢に詳しい米アラバマ大学の人類学者、クリス・カイル氏は、

「かつては、犯罪組織は政府当局の手から身を守るために、政治家に賄賂を支払う必要があった。だが、今はその関係が反対になっている。政治権力の座につきたければ、犯罪組織に賄賂を贈らなければならない」

と、ワシントン・ポスト紙(WP)に語っている。

 

 

5月初めに殺害された西部ゲレロ州議員候補、アベル・モントゥファー氏の射殺体が自身のトラックの中で発見されたケースでは、同氏が地元の麻薬カルテルに「みかじめ料」を支払わなかったことが殺害の動機だったと地元紙が報じている(WP)。

 

こうなってくると、立候補すること自体が命がけだ。

 

案の定、出馬辞退が相次いでいる。

上記のモントゥファー氏のケースでも代替候補探しは難航していると伝えられる。

 

近隣の自治体の長に立候補していた同氏の元スタッフも選挙戦から身を引いた。

米国境のチワワ州では、80人の候補者が出馬を辞退し、代替候補はその半数にしか達していないという。

コカコーラの工場が操業停止したゲレロ州では、多くの候補者が毎週のように脱落していると伝えられている。

 

 

こんな状態で選挙を行い、人が入れ替わったとしても、治安の回復はとても望めそうもない。

 

 

 



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