一缶で崩壊、アルコール依存症の実情

 

山口達也氏も読んでほしい"酒と罪"の実話

未成年への強制わいせつ容疑で警視庁に書類送検され、ジャニーズ事務所に契約解除されたTOKIOの山口達也(46)。

 

山口は飲酒に伴う肝臓病で1カ月入院していたが、退院した晩に酒を飲んで事件を起こしたという。

アルコール依存症の疑いもあるが、同じような症状で苦しむ人は少なくない。

 

裁判傍聴を続けるライターの北尾トロさんは「刑務所に入れば断酒できるからとわざと捕まる人もいる」という――。

 

■飲んだら負けと誓う人が、なぜ「気づいたら飲んでいた」のか

裁判傍聴をしていると、アルコール依存症の被告人にときどき遭遇する。

アルコール依存症は病気であって犯罪ではないので、酒を飲んで逮捕されることはないのだが、それが原因で事件を起こす人がいるのだ。

 

酔っ払ってケンカをする。

店で暴れる。

ときには泥酔の末、殺傷事件を起こすこともある。

 

酒のせいで理性が吹き飛んでしまうわけだが、自分のしたことを覚えていないことも多く、巻き込まれるほうはたまったもんじゃないのである。

 

法廷で被告人がよく口にするのがつぎの言葉だ。

「気がついたら飲んでいました」

「そんなわけはないだろう」と心の中でツッコミたくなるが、何度も聞かされると、本当にそうなんだなと思えてくる。

 

アルコール依存症の自覚がある人は、酒を断つことの難しさを知っている。

多くの被告人も、酒がうまいとか酒の席が楽しいといった安易でルーズな理由で飲むのではない。

むしろ逆だ。

 

 

もともとは、自分は一滴でも飲めば連続飲酒してキリがなくなり、何をしでかすかわからないから、飲んではならない、飲んだら負けだと心に強く誓っているのだ。

 

しかし最終的には、「気がついたら飲んでいた」という事態に陥る……。

 

 

▼アルコール依存の営業マンが「中づり広告」を見ない理由

もう10年近く前になるだろうか。

まさにそんな事例の裁判があった。

被告人は営業マンで、暴力事件の裁判だった。

 

 

その被告人は、半年ほど前に酒を飲んで同僚を殴ったことがあった。

裁判沙汰にはならなかったものの、会社に居づらくなって辞表を提出。

転職後は、アルコール依存症であることを自覚し、酒に近づかないように注意しながら生活していたという。

 

自分は下戸だとうそを吐き、会社の飲み会などには絶対出ない。

上司に誘われても口実を見つけて断る。

飲まなくても参加するくらいいいじゃないかと言われても、かたくなに拒否する。

 

 

たとえその場はガマンできたとしても、飲みたいという気持ちに火がついたら終わりだと考えていたからだ。

同僚から付き合いの悪い男と思われてもかまわなかった。

 

誘惑を断つため、家にはテレビも置かない。

うっかり酒のCMを見てしまうかもしれないからだ。

通勤電車では読みもしない文庫本から目を離さないようにしていた。

「酒の中づり広告ってやたらと多く、飲め、飲めと言われている気がするんです」

 

 

■半年断酒していた被告「カップ酒1本なら……」で崩壊

断酒も半年にさしかかった頃、出社途中の被告人は、駅のホームでカップ酒をうまそうに飲むオヤジの姿を目に入れてしまう。

見てはならないと思うのだが、目が離れず、足が止まった。

 

カップ酒1本ならいいのではないか。

いや、日本酒はにおうからやめておこう。

ビールだ。

缶ビール1本だけ飲んで会社に行こう。

 

自分は半年間も断酒に成功している。

1本だけ飲んだら普段どおり会社に行き、また断酒生活を始めよう。

 

そう考え、いったん駅から出てコンビニでビールを買い、路上で飲み干したら止まらなくなった。

 

かすかに覚えているのは、コンビニに戻ってカップ酒を2本立て続けに飲んだところまで。

しこたま酒を買い込んで自宅に戻ったことも、会社を無断欠勤したことも、そのまま日が暮れるまで飲み続けたことも記憶には残っていない。

 

 

捕まったのは、夜になってコンビニに酒を買い足しに行ったとき、金を払わずに店を出ようとしたためだった。

家に財布を忘れてきたが、どうしても飲みたかったので盗んでしまったのだ。

店員に声をかけられるとフラフラの状態で殴りかかり、タチが悪いということで警察に通報されてしまった。

 

▼裁判官「一滴でも飲んだら努力が台無しになるとわかったはず」

被告人は二度と飲酒しないと誓い、執行猶予付き判決を受けたが、裁判長は病院で治療を受けることと、断酒を続けるための組織に入るように念を押した。

 

「アルコール依存症を克服するには、生涯酒を口にしないことしかありません。あなたは今回、一滴でも飲んだら努力が台無しになることがわかったはずです。ひとりで克服してみせるなどと甘いことは考えないでください」

 

もう酒なんてこりごりだ、一生飲むものかと心に誓う。

治療を受け、「断酒会」にも参加して同じアルコール依存の仲間と励まし合い、立ち直る人もいる。

 

 

一方で、施設になじめず、自力でなんとかしようと考えて退会する人も多いと聞く。

しかし、ひとりで立ち直るのは至難の業。

酒の誘惑から逃れることができず、またしても事件を起こしてしまう人も少なくない。

 

 

もちろん自業自得ではあるのだが、別のアルコール依存症の被告人には同情を禁じ得ないケースもあるのだ。

酒から逃れるために、わざと罪を犯して捕まろうとする人である。

刑務所に入れば否応なく酒を断つことができるからだ。

 

 

■刑務所で断酒するために「居酒屋で日本酒一升」無銭飲食

でも、その行動には虫がいいと思える部分もある。

 

彼らは、酒をたっぷり飲んだうえで、最小限のリスクで捕まる「戦略」を立てているのである。

飲み始めると自分を制御できず、下手すれば人を傷つけかねないが、それは避けたい。

 

執行猶予期間中に罪を犯せば、前回の判決も加味されて実刑にしてもらえる(刑務所に入って断酒できる)ので、そう大きな事件である必要はない。

 

そのためには何がいいか……。

 

その結果、選ばれやすいのが居酒屋での無銭飲食(事件名は詐欺)である。

その際、酔って暴れ、他の客ともめたとしても、店員が止めてくれるから大事にはなりにくい。

 

所持金を持たずに入店し、素知らぬ顔でオーダーするのはどんな気分なのか。

検察や弁護人が尋ねても被告人の答えは曖昧だ。

 

「捕まる気でいたから、細かいことは考えませんでした」

「頭の中が酒でいっぱいで、それ以外のことは気になりませんでした」

 

 

▼「(逮捕され)これで飲まなくてすむんだと思ったらホッとした」

いずれも本音なのだろう。

 

被告人にしてみれば“最後の晩餐”である。

大事なのは、いかにたらふく飲み、スムーズに捕まるかなのだ。

 

覚悟を決めた被告人たちの多くは日本酒換算で軽く一升は飲む。

ビールに始まり焼酎、日本酒まで、閉店まで粘りに粘ってフルコースを堪能するのがパターンだ。

そしてお約束のように会計時に少し抵抗してから捕まる。

 

「逮捕されたときのことは覚えていませんが、意識が戻ったら警察にいて、これで飲まなくてすむんだと思ったらホッとしました」

 

まるで捕まえてくれてありがとうと言わんばかりの態度に、なった人にしかわからない、アルコール依存症のつらさが現れていると僕は思う。

 

話を聞けば聞くほど、被告人たちは――酒のことを除けば――普通の人たちで、十分に更生できる可能性があると思う。

 

 

アルコール依存症と戦いながら日々を過ごしている人は大勢いる。

当然ながら彼らのほとんどは犯罪者にもならず、ストイックな生活を貫いている。

非依存者には、彼らが今日も一日飲まずにいることの大変さを理解することはできない。

できるのは邪魔をしないことくらいなのかもしれない。

 

 

まずは、酒を飲みたがらない人にかける、この一言をやめることから始めてはどうだろう。

 

「まあまあ、野暮なことは言わないで、一杯だけ付き合えよ」

 

 

 

 

 



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