野党の追及よりずっと厳しい大阪地検の女性特捜部長は何者か

 

政権支持率の大幅低下をもたらした森友学園問題をめぐり、安倍一強を揺るがしたのは野党でもメディアでもない。

 

大阪地検特捜部である。

 

異例の女性特捜部長を中心とした捜査チームは、異常なまでの執念と覚悟で、官邸を追い詰めている。

 

「訴追を受ける恐れがあるので答弁を差し控えたい」

 

 

証人喚問に立った佐川宣寿・前国税庁長官はそう繰り返し、約50回にわたって証言を拒否した。

 

自民党内では、佐川氏が安倍晋三首相夫妻をかばい続けたことから、「これで佐川は逮捕を免れる」という見方もあるが、政権が検察捜査を意のままに操れると考えているとすれば思い上がりだろう。

 

 

佐川氏にすれば、ダンマリで逃れられる証人喚問での野党の追及は怖くない。

だが、刑事訴追され、証言拒否できない検察の捜査を受けることは本気で恐れていたのだ。

 

 

公文書改竄事件で財務官僚が検察の取り調べに“全面自供”すれば捜査が政界に波及する事態もありうる。

 

森友事件を取材してきたジャーナリスト・伊藤博敏氏が指摘する。

 

「財務省の公文書偽造の事実がはっきりした以上、大阪地検特捜部は籠池前理事長夫妻だけを逮捕・起訴し、財務官僚は不起訴にするという“予定調和”の捜査はできなくなった。佐川氏が逮捕、起訴される可能性は十分あります。

その場合、検察は、財務官僚たちが、国有地を安く払い下げたという背任を隠すために公文書の改竄を行なったという容疑を組み立てるはずです。そして『官邸の指示があった』という証言を得られれば、政治家や官邸中枢も事情聴取の対象になる」

 

 

検察の森友事件捜査は、今後、財務省から政界を視野に入れた展開になる。

その指揮を取るのは“酒豪”で知られる山本真千子・大阪地検特捜部長だ。

 

大阪市立大学出身で京都、大阪、東京の各地検を経て法務省人権擁護局総務課長から2年半前、女性初の特捜部長に抜擢された。

 

「独身で化粧気が全くなく、おしゃれにも無頓着で、記者とも気さくに赤提灯で飲む。これまで大型事件の捜査を手がけたことはなかったが、テキパキ事件を処理するタイプで上司に信頼されている。女性検事の中では出世頭です」(大阪の司法記者)

 

趣味は酒とテレビドラマ。

 

とくに木村拓哉主演の検事ドラマ『HERO』の大ファンで、DVDボックスまで買いそろえたといわれている。

 

その山本氏が特捜部長に就任すると、国民の注目を集める森友学園事件に遭遇した。

 

「山本特捜部長は森友学園への国有地払い下げ疑惑の報道直後から重大な関心を持って内偵捜査を進めさせ、土地売却の資料を集めた。最初から立件に向けてやる気満々だったが、政界がからむだけに捜査は難航した」(同前)

 

籠池夫妻の逮捕(2017年7月31日)は「国策捜査」と批判され、その後、籠池夫妻を異例の長期勾留していることも「政権の口封じに加担している」との批判を浴びている。

 

そこに強力な助っ人が現われた。

 

東京地検特捜部である。

 

 

東京の司法記者が語る。

 

「大阪地検特捜部は文書改竄問題で財務官僚を大阪に呼び、任意の聴取を行なっている。いずれ佐川氏の聴取も行なわれるはずだが、最高検は大型事件の経験が乏しい山本特捜部長だけでは財務省の捜査は荷が重いとみている。

そこでリニア事件捜査が一段落して手が空いた東京地検特捜部と大阪の特捜部が合同で財務省本省に強制捜査に入るという情報が流れています」

 

 

東京地検の森本宏・特捜部長は特捜経験が長い文字通りエース。

 

法務省刑事局刑事課長を経て昨年9月に特捜部長に就任すると、安倍政権肝煎りのリニアに関わる談合事件捜査と、やはり安倍人脈がからむスパコン疑惑を次々に立件し、特捜部の「最強の捜査機関」としての威信を回復させた人物だ。

 

 

最高検は強力な助っ人投入で女性特捜部長に大手柄を立てさせようとしているのである。

 

 

 

◆最高検の“リーク”か

 

その背後に検察の安倍政権との因縁がある。

法務省・検察組織は検事総長を頂点とするピラミッドで、「検察官の独立」を守るために実質的な人事権も検事総長が握っている。

他省では官僚トップの事務次官は検事総長への出世コースにあたる。

 

だが、安倍政権は内閣人事局の人事権を盾に検察人事に介入した。

 

「法務・検察首脳部は2016年7月の人事でエースの林真琴・前刑事局長を事務次官に就任させる人事案を官邸に上げた。ところが、官邸は人事案を突き返し、同期の黒川弘務・官房長を次官に据えた。

黒川氏は政界捜査の際には情報を逐一官邸にあげることで官邸の覚えがめでたく、甘利明・経済再生相の斡旋利得事件の際に特捜部が甘利事務所への家宅捜索さえ行なわずに不起訴処分にしたのも、そのパイプで政治的取引があったからだと見られています」(伊藤氏)

 

 

その後も、法務・検察首脳部は昨年7月、同12月に林氏を次官にする人事案を上げたが、官邸は拒否して黒川次官を留任させ、ついに林氏は次官になれないまま名古屋高検検事長に異動した。

 

法務・検察は煮え湯を飲まされ続けたのだ。

 

安倍官邸の人事介入への反発は、黒川氏の存在で政界捜査に“待った”をかけられてきた特捜部など捜査の第一線に立つ検事ほど強い。

 

それからほどなく、朝日新聞が財務省の文書改竄問題をスクープし、安倍政権は追い詰められた。伊藤氏が言う。

 

「朝日の情報源は改竄前と後の文書を持っていた大阪地検ではないかと見られていますが、流出を疑われるのを覚悟でやったとは考えにくい。むしろ、最高検の検察首脳部が安倍政権に痛打を与えるために出したのではないか」

 

オール検察の安倍政権に対する“宣戦布告”だったという見方だ。折しも佐川喚問の後、改竄の全責任を負わされた形の財務省サイドから不穏な情報が流れ出した。

 

「文書改竄にあたって、官邸と財務省本省の間で書き換える文面の調整が行なわれていた。窓口となったのは双方の中堅キャリアだった」

 

という内容で、その話には調整役となった2人の官僚の個人名や関係性などもあって妙に具体性を帯びていた。

現時点では真偽不明だが、大阪地検特捜部が財務省への強制捜査と佐川氏ら財務官僚への取り調べで、官邸と財務省が改竄の協議を行なっていたという証拠をつかむことができれば、今度こそ、安倍官邸は決定的なダメージを被ることになる。

 

 

そこまで踏み込めるか、それとも官邸の顔色を窺って籠池夫妻立件で終わるのか、山本特捜部長の真価が問われる。

 

 



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