NYタイムズは山口敬之の「準強姦事件」をどう伝えたか

 

昨春、本誌が口火を切った総理ベッタリ記者・山口敬之元TBSワシントン支局長の「準強姦事件」。

 

英BBC、仏フィガロは被害を訴える伊藤詩織さんのインタビュー等で経緯の異常さを伝えてきた。

 

そしてついに、米NYタイムズが1面で報じるに至ったのである。

***

 

傘の花が開いた東京・銀座。行き交う人々はたいてい長袖の何かを羽織っているが、中には半袖Tシャツ姿の男もあり、季節は夏から秋へ向かっているようだ。

人の群れを背景に、伊藤詩織さんは立ち止まってカメラを見据えている。“動”に対して“静”の彼女は、あたかも異邦人である。

レイプ現場のシェラトン都ホテル東京のカットを挟み、ビル群をバックにした山口氏を同じくカメラは捉える。

去る12月30日付のニューヨーク(NY)・タイムズは、本誌(「週刊新潮」)報道が端緒となった「準強姦逮捕状事件」について、リポートを1面に掲載した。

東京支局長の手になるもので、タイトルは、

【彼女は伝えた。そして日本は彼女を無視した】

とある。

当事者である詩織さん、山口氏にインタビューし、描写した通り、両者の写真もある。

“動”に対して“静”というのは、「無視した」というタイトルの文言と響きあっている。

1面の一部と8面のほとんどを使ったロング・ストーリーは、

〈日本で最も著名なテレビジャーナリストのひとりが伊藤詩織さんを食事に誘ったのは、ある金曜の夜だった〉

と書き起こされる。

 

飲食してからホテルへ連れ込まれた後の“レイプ”、昨年5月の検察審査会への申し立て後の記者会見、10月の手記出版、山口氏を民事で提訴……。

目まぐるしい動きを追う中で、肝腎な点からも目を逸らすことがない。

例えば、「彼女は意識をなくしていた」とタクシー運転手が警察に証言し、逮捕状も出ていたにもかかわらず、当時の警視庁刑事部長が逮捕取りやめを命じたことについては、

〈(安倍)首相との繋がりのために、山口氏が有利な扱いを受けたのではないかという疑念もある〉

と指摘。

 

安倍首相を表紙にした『総理』『暗闘』を上梓し、総理との蜜月を余すところなく綴った山口氏のベッタリ具合をにおわせる。

 

山口氏の言い分も掲載

おしなべて、性犯罪被害者への扱いや法整備に対して日本が後進国だと印象付けるトーンで、具体的にはこんな具合だ。

〈米国でキャピトルヒル(連邦議会議事堂のある一帯)

ハリウッド、シリコンバレー、メディア業界を騒がせる性犯罪事件が続々と暴露されるなか、伊藤さんの話は、ほとんどの被害女性が警察に相談しない、もしくは届け出たとしても逮捕や起訴に結びつかない日本において、性犯罪がいかに避けられがちなテーマであるかを表す典型例なのだ〉

〈最新の政府統計によると、2016年の強姦の認知件数は989件、女性10万人あたり1・5件である。一方、米国では、FBIの統計によれば、11万4730件、男女合わせて10万人あたり41件の強姦が発生している。

専門家は、この差違は犯罪率そのものではなく、むしろ被害者が通報をしない実態と日本の警察や検察の態度が反映されていると分析する〉

 

他方、山口氏にも言い分を聞いており、

〈彼女をホテルに連れて行ったのは、(酔っているからひとりでは)家に帰ることができないと懸念したためで、自分自身は、部屋に戻ってワシントン時間の締切に間に合わせなくてはならない仕事があったからだと説明した〉

〈伊藤さんを部屋に連れて行ったことは、「不適切だった」と認識していたが、「駅やロビーに」放置するのもまた不適切だと思った」と述べた〉

〈「彼女から迷惑を被っているのは私の方です」とも語った〉

結論としてNYタイムズは、タイトルにあるように、

〈伊藤さんは、10月に体験をまとめた手記を出版したが、大手メディアは、大々的に取り上げることはなかった〉

と訴えるのだった。



 

「誰もが飛びついた」

「彼女が最初の記者会見を開いたときに、私は驚きました」

と話すのは、記事を書いたモトコ・リッチ支局長本人である。

「ただ、この件を大々的に報じたのは、あなた方(本誌)に加えて、ジャパンタイムズなど、日本における英語で発行されているマスコミだったわけです。しかし、日本のマスコミでは、きわめて小さな扱いしかされませんでした。

また、取り上げ方が小さかったというだけでなく、彼女が記者会見で語ったことをそのまま伝えたに止まり、それ以上の独自の調査をしようという努力が見られませんでした。私が理解している限りでは、詩織さんの告発は、きわめてセンセーショナルなものであったはずです」

 

そして、「なぜならば……」と言葉を継ぎ、

「その対象が日本で最も有名なテレビジャーナリストのひとりであり、また、それは大きな事件であるからです。そのような告発をしたという事実だけでさえも、この件を更によく調べようと思わせるものであり、アメリカであったならば、そのような告発がなされれば、誰もがこの一件に飛びついたでしょう」

それでもNYタイムズは山口氏にも2度インタビューするなど、長い取材期間を経て、このような形に落とし込んだのだった。

 

リッチ支局長はこうも付け足す。

「日本の法律には、“もしあなたが、脅迫や暴力によって性行為に及んだ場合……”とあり、その相手と合意を得ることが必要であるか否かということは書かれてはいません。しかし、アメリカでは、『合意(の有無)』というのが、レイプを定義するにあたり、きわめて重要な概念になります」

 

ここは日本ではあるが……詩織さんは意思表示さえできずベッドで組み敷かれている最中に目が覚めたと主張し、山口氏は民事訴訟における答弁書のなかで「合意」だと述べている。

 

フィガロ、ダーゲンス・ニュヘテルは…

その他、イギリスの公共放送BBCやフランス国内で最も古い歴史を持つ日刊紙フィガロ、スウェーデン最大部数の日刊紙「ダーゲンス・ニュヘテル」など、少なくない欧米メディアが詩織さんのこの事件を報じている。

例えばフィガロは、

【伊藤詩織、日本を震撼させる、レイプ事件】

というタイトル、そして

〈政権に近い人物に襲われたある女性ジャーナリストが、襲われた事実を認めさせ、社会のタブーを告発する戦いに挑んでいる〉

というリード文のあと、次のように続く。

〈彼女の話によれば、著名な極右ジャーナリスト山口敬之とレストランで仕事上の会食中にいきなり意識を失い、数時間後に意識を取り戻したときにはちょうどレイプされている最中だった。

話は詳細にわたり(「思い出に君のパンティーをもらっていいかい」と山口が彼女に聞いたという)、内容には信憑性がある〉

詩織さんは服を探してホテルの部屋を歩き回ったが、なかなか見つからない。

その間に発せられたのが、他ならぬ“極右ジャーナリスト”の「パンティー」発言である。そして記事はこう継ぐ。

〈山口敬之は彼女宛の弁解書簡の形で極右の雑誌(月刊「Hanada」)に記事を載せることになる〉

 

NYタイムズ同様、日本の“後進”ぶりを論(あげつら)い、

〈かつて東京で起きた、フランス人女性のレイプ事件。これを扱った元駐日フランス大使館職員はこう述べる。「日本の警察のレイプ案件に関する対応は30年前のフランス警察並みである」〉

〈伊藤詩織は女性の社会的地位が男性より低く、女性が告訴しにくい社会そのものを相手にしている。彼女はネックのボタンをはずしたシャツというカジュアルな服装で記者会見場に現れたが、この点もツイッターで非難された。「近しい者の中には私から離れて行った人もいた」と彼女は言う。

マスコミは「ハニートラップ」(無実の男性をハラスメントで訴える女性)という噂も流した。日本女性自身もまた社会における女性の地位について概して保守的な考えを持っている。伊藤詩織と同世代の女性たちのほとんどは「夜遅く男性と1対1で食事するのは女性自身に落ち度がある」とインタビューに答えている〉

詩織さんの“服装”については、【日本の#metooの第一人者、勇気のある女性】と題された「ダーゲンス・ニュヘテル」記事でも、

〈「同じ記者仲間から、記者会見前に、ジャケットを着るように、とアドバイスをされたが、私はそれをしなかった。犠牲者としての態度や行動の指示を受けるのがもううんざりとなっていた」と詩織がいう〉

と触れられている。

 

また、以下のように記者が紹介するのは、会見に寄せられた“反響”だ。

〈記者会見の後、Eメールの受信フォルダが殺害の脅迫メールで一杯となった〉

〈他の女性から、自分の事を自分で守れなかった、ということで批判もされた。保守派である安倍総理を降ろすための政治的な意図があったのではないか、という噂もあった。なぜなら、普通の日本の女性なら、あれだけ恥ずかしいことについてオープンに話をするはずはないからだ〉

 

 

 

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