高速卓球・張本は「脱力」の天才

 

6500人の観衆が、あまりの強さに言葉を失った。

 

全日本卓球選手権最終日の21日、男子シングルス決勝で中学2年の張本智和(エリートアカデミー)が10度目の優勝を狙った日本のエース水谷隼(木下グループ)に快勝。史上最年少の14歳で頂点に立った。

立ちあがりの良さが張本の持ち味の一つ。

第1ゲーム、フォア、バックの速い両ハンド攻撃を繰り出し、7-2、9-6と先行。追いすがる水谷を11-9で振り切って勢いを得た。

第3ゲームを逆転で奪われたが、第4ゲームは再び出だしから押しまくり、11-2。静まり返る観客席から「隼、頑張れ」の悲痛な声援も飛んだ。

水谷がサービスを変えて第5ゲームを取ったが、第6ゲームはまた立ち上がりの良さを発揮。11-5で圧倒した。
昨年の世界選手権の2回戦で水谷を破り、史上最年少で8強入り。

その後も世界の強豪に引けを取らない戦いを見せてきた。

水谷としては、飛躍のきっかけを与えた張本に対し、まだまだ「壁」になろうと万全の準備で臨んだ全日本だった。
しかし、展開された光景は残酷なほどに時代の変わり目を印象付けた。

もともと水谷は中後陣でラリーを続け、時間をかけて得点を重ねる卓球。近年の高速ラリーに対応すべく前陣攻守も身につけ、リオデジャネイロ五輪の団体銀メダルにもつながったが、張本の高速卓球ははるかにその先を行く。
水谷も

「きょうの彼が100%の力だったなら、何回やっても勝てない」

と脱帽。

 

張本が

「相手が水谷さんだったので120%の力が出た」

と言ったのは救いだが、水谷は

「今までたくさん中国選手とプレーしたが、そのレベルに来ている。彼が出てくるまでにたくさん優勝しておいてよかった」

とも。

 

吉村真晴(名古屋ダイハツ)、丹羽孝希(スヴェンソン)に負けた時も認めなかった世代交代を口にした。
張本の才能を示す特徴は数多い。

習得力の早さ。自ら積極的に学ぶ姿勢。並外れた負けん気。

身長は173センチに伸びたが、コートの中ではもっと大きく見える。
 

男子ナショナルチームの倉嶋洋介監督は

「小学校を出た頃にサービスを増やそうかと教えたらすぐにできた」

「言われたことをさらに上のレベルで考える」

「今大会も『4冠を目指す』と言ったように、何でも優勝しないと気が済まない」

と言う。

打法、球質、スピード、コースともに多彩なバックハンド。

この日は速いバックを水谷のフォアへ厳しく決め、振り回した。台上ボールの処理のうまさも14歳とは思えない。

 

◇速い切り替え、崩れない中心線

中でも多くの卓球人が驚くのは、打球の瞬間の前後に力を抜くうまさと速さだ。

打って素早く体をニュートラルな状態に戻し、次の打球に備えることは古くから卓球の重要な技術だが、張本はそれがとてつもなく速い。



 

関係者は

「あんなに速い選手は見たことがない。だからフォアとバックの切り替えも速いし、ラリーが続いても体の中心線が崩れていかない」

と目を見張る。

 

力が抜けた状態に速く戻すことは、次のスイングを速くするためにも必要で、水谷や欧州勢のように力感のあるフォームではないのに、スイングが速いので強く低い打球が打てる。

さらには、互いに揺さぶり合うために、緩急を付けたり付けられたりした時の対応にも、力の抜けた柔らかいタッチができなければいけない。

水谷もうまいが、張本はそうした緩急の切り換えも抜群に速い。
かつての福原愛(ANA)のように、卓球を早く始めると、幼い子でもラケットを操作しやすいバックから先に上達し、フォアが課題になる選手が多い。

 

張本も同じで、この1年ほどフォアの強化に取り組んでいる。

苦手な技術は力みがちになる選手が多い中、張本は「7、8割の力で打っている」感覚をつかみ、今大会でもフォアに進境を見せた。

これから体ができて「7、8割」のレベルが上がれば

「一撃で抜けるドライブも打てるようになると思う」

と張本。
父・宇(ゆう)さん(47)は

「打ってすぐ(基本姿勢に)戻ることは、早くから教えてきた」

と話し、張本も

「常に次の打球が来ることを想定して練習してきた」

とは言うものの、倉嶋監督は

「力を入れることは誰でもできるが、抜くことは教えてできるものではない」

と驚く。
 

顔を赤くして「チョレイ!」と叫ぶ姿とは裏腹に、力を抜く天才・張本。

その「チョレイ!」も、倉嶋監督は

「まだ中学生だから大声を出すけど、体力を消耗するし、その間に次のプレーなどを考えた方がいいから、そのうち出さなくなるでしょう」

という。

 

すでに今大会、ここ一番以外では「静」の張本の片りんも見せた。

エリートアカデミーで張本に接する機会が多い女子ナショナルチームの関係者は

「卓球の強さは可愛げがないけど(笑)、性格は可愛いので、ファンにも愛されるチャンピオンになりますよ」

と優勝を喜んだ。(時事ドットコム編集部)

 

 

 

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