相撲部屋のおかみさんが語る驚愕の食料事情

 


高砂部屋の長岡恵さん

 

相撲部屋のおかみさん。

 

どんな人を想像するだろうか。

親方が黒といえば白いものも黒になる縦社会、巨体の格闘家たちに囲まれながら部屋を切り盛りする女傑。そこらの力士より強いのではないか。

下手なことを聞けばペンを持てない体にされるかもしれない。

緊張のあまり汗だくになりながら、今回僕は二つの相撲部屋のおかみさんに会いに行った。

 

「毎日がハプニングですね。24時間、落ち着いていられる時間というものがないんです。いつ何が起こるかわからない」

 

阿武松部屋のおかみさん、手島久子さんはさらりと言って上品に笑った。

 

「このあいだは夜中に発作が起こった子がいて。ずっと手がこう、トントンと痙攣して、止まらないんです。一緒に救急車で病院に行きましたが、診断は過呼吸」

 

「過呼吸? それじゃあ……」

 

「はい、たぶんストレスだと思います。場所中でしたから。べつに入ったばかりでもない子なんですけどね。その後は安心したのか、大いびきをかいてましたけど」

 

闘いの世界に生きる力士たち。彼らのそばにいるということは、そんな緊張感と隣り合わせでもある。

 

「おかみは、雑用係に近いですよ。仕事は自分で見つける。というか、なんでも仕事」

 

硬いフローリングの床で座布団も敷かずに美しく正座して言うのは、高砂部屋の長岡恵さんだ。

 

「お礼状を書いたり、後援会との連絡係だったり。トイレの床が傷んだとなれば直したり、いろいろと足りない物を買ってきたり。初めのうちは何をしていいか全然わからず、無我夢中でした」

 

手島さんも長岡さんも、こう言ってはなんだが、ごく普通の女性である。

街ですれ違っても、相撲部屋のおかみさんとはまず気づかないだろう。

二人とも相撲については素人同然のまま、この世界に飛び込んだそうだ。

「知っていたら、来なかったかもしれません」

と、二人とも冗談まじりにこぼしていた。

 

「とにかくご飯もよく食べるでしょう。彼ら、お腹いっぱいということがない。差し出されてNOと言わない、何でもごっつぁんです、ごっつぁんですなので。エンゲル係数は異常に高いと思います」

 

手島さんいわく、1日に10キロの米が必要だそうだ。

 

「ちゃんこも初めはびっくりしました。あれね、鍋が大きいでしょう、味噌を入れても入れても味が変わらないんです。切っても切っても材料が残るし、まな板はひとつじゃ足りないし、お魚とかも、これは食材なのだろうかってくらい、大きな切り身にして…………」

 

長岡さんは両手を大きく広げてみせる。

「ものもよく壊れます。トイレの便座は消耗品。割れるんですよ。大事に使ってね、とお願いしています。あと相撲部屋でよくあるのは、どうしてこんなところにカレンダーが貼ってあるんだろうと思って裏を見ると、壁に大穴が空いていたりとか」

 

一方、手島さん。

「うちは洗濯機が消耗品です。量が普通じゃないからね、果てしなく回しているので、すぐにダメになっちゃうんですよ。でも結構みんなきれい好きで、柔軟剤を大量に入れてます。あとは自転車もすぐ壊れるかな。サドルが曲がっちゃったり、パンクしたり」

 

相撲部屋で生活を続けていくには、一般の家庭では想像もできないようなことが起こるようだ。

 

 

二宮敦人(にのみやあつと)

作家。1985年生まれ。おもな小説作品に『最後の医者は 桜を見上げて君を想う』『郵便配達人 花木瞳子 CASE 親指泥棒』。初のノンフィクション作品『最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常』がベストセラーに。

 

 



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